第9話 生徒会室

 その日一日、朝で顔を合わせた以外で会長に会うことはなく授業が終わり、放課後となった。

 これでいい…そう、そのはずなんだ。

 それでも、なぜだかスッキリしない気分のまま今日も早足で下駄箱まで降りていった。

 

 自分の靴箱の前まで着いた。するとまた、日差しから見える人影が見えた。


 まさか…会長がいるのか?あんなことがあって、そんなわけが…。

 俺はそこにいる人物を見てみた。しかし、そこにいた人物は会長ではなかった。


 「はぁー…」と軽く溜息をついた。今度はお前かよ…。


 「言ったよね、会長を悲しませたら僕は君を許さないって」


 そこにいたのは、神崎龍介だった。会長から付き纏われるのが終わったと思ったら今度はこいつかよ。

 会長ではなかったことに少しホッとしたような、どこか物悲しい気分も少しあった。


 こいつも、ここで俺に会うために先回りしたのか?息は全く切らしていない、そこはさすがだ。

 …しかし、悲しませたら許さないとかそんなこと言われてもどうしようもないだろう。もう終わったことなんだ。


 「君、もう一度会長に会ってくれないか?」

 「…昨日、見てたんだろ?ならわかるだろ、会長はもう会わないって言ってただろ」

 「君にはまだ選択肢が二つある、会長に会うか会わないかだ」


 あんなことがあった手前、どうして会わなくてはいけないんだ。


 「会わない…って言ったらどうするんだよ」

 「そうだな…例えば君が会長を泣かせた事実を僕が学校中に広めたら…君はどうなるかな」

 

 その発言に俺は背筋が凍る思いだった。

 どうなるか?そんなことわかりきっているだろう。

 会長を泣かせた、その事実だけで俺はとんでもない目に合うだろう。そんなことを簡単には信じないだろうがこの神崎が言うんだ、伝えられた奴らは嘘だろうが信じてしまうだろう。


 「お前…脅すつもりかよ」

 「脅すなんて人聞きの悪い、例えばの話をしただけさ」


 神崎は裏に何か秘めているような邪悪な笑みを浮かべている。

 普段はいい奴ぶっているのにこんなことを考える裏の一面もあるなんてな…。そのことを学校中に広めてやろうかなんて考えたが、俺が言ったところで誰一人信じてくれる人がいる気がしない。


 しかし…今度は別の面倒なことに巻き込まれる羽目になってしまった。

 どうしたらいいか…ここで拒めばこいつは本当に有言実行しそうだ。


 二者択一になってくる。神崎がしようとしていることで後々どうなるかを考えた上なら、会長に会う方が数段マシという結果になる。


 

 ……それに、どうあれあの時泣かせてしまった負い目も少し感じていた。一言でいいから謝りたかった。

 

 俺にとっては本当に迷惑だとしか思っていなかった行為だったが、会長はあれでも俺のことを思ってしてくれていたことだ。それに対してあの言い方はないとさすがに反省もしていた。


 「俺が会って…それだけでいいのか?」

 「会長が元の笑顔を取り戻してくれる、それだけで僕は何も言わないよ」


 果たして俺がまた会うだけでどうにかなるとは思えないが…仕方あるまい。


 「生徒会室って…どこだよ」

 「どうやら決心してくれたようだね。さぁ、行こうか」


 放課後にどこか別の教室なんかに行くのなんて今までない。生徒会室なんて行くのも初めてだ。

 重い足取りで神崎の後をついて行く。

 神崎の案内で三階の『生徒会室』と小さく書かれた一室まで着いた。


 そこは教室の半分もないくらいの小さな一室だった。教室同様の引きドアが一つだけある。神崎と二人、そのドアの前まで立つ。


 「それじゃあ、入るよ」

 

 俺は軽く深呼吸をした。

 そして、神崎がそのドアを開いた。


 ドアが開いた瞬間に中からもの凄い香りが漂っていた。別に嫌な匂いじゃない、いい香りだ。

 そして中を見渡した時、その匂いの正体が一発でわかった。

 物置の上や窓のそばなど至る所に色とりどりの花がそこら中に飾ってあったのだ。


 そして、その生徒会室の真ん中には長方形の長机が一つ、ドアから向かい側の奥の窓の方にまで伸びて設置してあった。

 

 そして、その一番奥に座っていたのだ、花城会長が。

 

 会長はすぐに俺の姿に気が付き、立ち上がり口を押さえて少し涙ぐんでいた。


 「影井…君…どうしてここに」


 神崎に言われて仕方なく来た…なんて言えないか。嫌々来ているのがバレたらまた悲しまれるだけだ。


 「とりあえず中入りなよ」


 神崎が横からそう言って二人で生徒会室の中に入り、神崎はドアを閉めた。俺は少し前に出る。

  

 その机には会長の他に二人の生徒が座っていた。

 こちらから向かって左側の奥の方の席に座っていたのは俺のよく知る顔、秋山だった。

 秋山は俺の顔を見るなり、キョトンとした顔をしていた。俺がいる状況を理解していない。


 「え…勇綺、どうして生徒会に…?」

 「少し、訳があってな…」


 秋山の向かい側には俺の知らない一年の女子生徒が座っていた。

 特に関心を見せる様子もなく、何も言ってこない。


 

 「お疲れ様です、会長。影井がどうしても会長と会って話したいことがあるって言うんで一緒に連れてきました」


 神崎が平気でそんな嘘をついた。言ってねえだろそんなこと。


 俺は「ふぅ…」と軽く息をついてから口を開く。


 「花城先輩、なんというか…すいませんでした。昨日はその…言いすぎたみたいで」

 「…えっ?あ、ううん…そんなことないの…。悪いのは私なの、本当にしつこくしてしまったから…」

 「いえ、とにかく昨日は俺が悪かったんです、それだけが伝えたかっただけです」


 俺は軽く頭を下げる。

 言いたいことは言えた。こうして真剣に誰かに謝罪をしたのも初めてだった。

 これで少しはスッキリした。しかし、心の中でもやもやはまだ残って消えていない。


 顔を上げて会長の顔を見ると、どこか悲しげな表情をしていた。まだ、会長は自分の方に責任があると思い込んでいるのだろう。


 しかし、こうして謝ることもできたのだ。会長も少しは自分だけを責めることはなくなったはずだ。


 「会長は悪くないですから、それでは」


 俺は最後にそう念押しして、気が済んだので生徒会室から出ようとドアに手をかけた時だった。


 「いや、それだけじゃないだろ影井。…君、生徒会に入るんだよね」


 は…?

 神崎が意味不明なことを発言する。何を言い始めているんだこいつ。

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