第6話 涙
それから数日のことであった。
会長は休み時間などのことあるごとに隙をみては俺に会いに来たり、話しかけたりするのだ。
どんなに嫌だということを態度にとって拒否しようとも会長はめげずに俺に接近してくるのだ。
朝の挨拶、毎朝のように会う。隙を見計らって会長を避けて教室へ行こうものなら、ちゃんと登校しているのか教室まで確認をしてくることもあった。
なぜ確認しにくるのかと問えば学校に来るのが嫌になったんじゃないかと心配になり、それで休んでるんじゃないかと勘繰られているらしい。
学校が嫌になることなんてしょっちゅうあることだ。ただ休もうとは思わない。早く卒業したいので単位や出席日数が足りなくなるのは困る。
もし嫌になるんだとしたらこうして会長が付き纏ってくるこの現状の方が辛いんだ。なんならそれを助長している。
そして、体調なんかもいつも気にかけられていた。少し暑い日なら冷たい飲み物を差し入れてくれたりもした。
何も頼んじゃいないのに、とにかくお節介だ。
俺が制服の襟が立っていたり身嗜みがちゃんとしていないようものならば、それを直しにかかる。距離が近い、平気で寄ってくる。当人はなんとも思ってないようだが、俺は気にする。
俺の容姿なんざ誰も気にしてもいないだろうに、そんなことをされても意味はない。
趣味や興味のあることなんかを聞かれることもあった。その度に俺は「一人で静かにしていること」などと適当なことを言って返していた。そう言ってもなお、会長は俺を一人にさせまいとしている。
会長もなるべく人がいないところで話しかけてくるようになってきたのだが、それでも目立つことが多々ある。その都度、俺は嫌悪感を抱いていた。
会長は責任感が強くて一人省かれている俺をなんとかしたいと思っているのだろう。
一人孤立している俺を気の毒に思ってどうにかしようと思っているのだろうが、俺は会長の期待には答えない。誰にも接しないで学校生活を送っている。
俺は一人が好きなんだ。この現状は普通ならば嬉しいんだろうが俺には迷惑でしかないんだ。そんな不満が募っていった。
〜〜〜〜〜
そしてある日の放課後であった。
授業が終わり、俺は教室を出て下駄箱に直行する。いつもながら学校中で一番早いんじゃないかという速度であった。
下駄箱に着いた。すると、「ハァハァ…」と息を上げる声がした。
そして、自分の靴箱の前を見てみるとそこにはいたのだ、息を切らせて胸を押さえていた会長が。
俺は「はぁー…」と大きく溜息をついた。
会長が放課後まで俺に会いに来ることがあったのは進路相談で遅れたあれ以降では初だ。
俺はとにかく家大好き人間なんだ、一秒でも早く帰りたい。それを阻害されたことにはどうしても許せなかった。
会長はまだ息を切らせている、俺を先回りするために走ってきたのか?どうしてそこまでするんだ。
そして会長は息を整えてから俺の方に視線を合わせた。
「…影井君、今日も学校楽しんでくれたかな?…もし暇だったら生徒会室まで遊びに来ないかな?今日はね、生徒会で新しい学食のメニューがあるから試食して意見を聞かせてほしいんだって。一般の生徒も来ていいから是非、影井君もどうかなって…」
そんなもの、微塵の興味もなかった。
俺は帰りたいという気持ちが強いのもあり、つい勢いで言ってしまった。
「あの…いい加減にしてください。もう俺に関わらないで欲しいんですが。…正直、迷惑なんで」
俺は真剣な顔をして会長に視線を合わせてそうはっきりと言った。
それを聞いて会長はハッとした顔になる。
俺は、なるべく人は傷つけないでおこうとそう心がけながら生きてきた。誰かを怒らせたり悲しませることを言ったらその分、反発されるからだ。それなら何か言われたりされてもただ受け入れて何もしない、その方が気が楽だった。このような人の行為をはっきりと否定する発言をしたのは初めてかも知れない。
「迷…惑…そ、そうだよね。ごめんなさい。私…その、影井君の気持ちもわからないで…」
そうだ、わかってくれればいいんだ…。
会長はそんなことを言われても、いつものような笑顔を見せていた。
…しかし、しばらくすると会長の頬に一筋の涙が流れていた。
「あ、あれ…なんでだろう、私…」
会長は慌てて手で涙を拭っていた。
えっ!?なぜ泣く?そこまで酷いこと言ったか?
人を泣かせることなんてしたことがない。どう対処すればいいのかわからない。
下校する生徒達が下駄箱の方へとやって来る。
どうするんだよ、これは大変まずい状況じゃないのか。
「ごめん…もう…影井君には合わないから」
そう言って、会長はその場から駆け足で去っていった。
涙は他の生徒に見せまいと顔を伏せていた。俺に配慮してくれたのだろうか…。
去っていく会長を目で追っていたその時、誰かの人影があり、こちらを見ているような視線を感じた。気のせいだろうか…。
俺は会長を追うこともなかった。ただ少し呆然として立ち尽くしていた。
それから、何事もなくいつものように家に帰宅していった。
学校であったことなんかはなるべく考えないようにしてきた。だが、今日の出来事、あの会長の涙が帰宅してからも頭から離れなくなっていた。
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