浦島太郎

男が一人釣りに出かけていました。


「午前中の方が静かでかかりやすいんだよなぁ。ここ。」


夢中で釣っていると少しはなれたところから子供の声と誰かの嘆きの声が聞こえてきます。


「やいやい!のろまな亀め!」


「爬虫類とか気持ち悪いんだよ!」


「とっとと絶滅しちまえよ!」


これは大変。性悪な子供3人に亀がいじめられています。


「えーん!助けてくださぁい。」


泣き叫ぶ亀を見かねた男は飛び出していいました。


「この悪ガキ共! いじめは立派な犯罪なんだぞ!」


「なんだよオッサン!」


「関係ねぇだろ!」


「関係ないね!」


「よし、じゃあガキ共。今から警察に行って動物愛護違反でしょっ引いてもらおうか。」


「え?」


「け・警察だけは勘弁してください。」


「見逃してください。」


「嫌だ。」


それから立ち尽くしていた性悪な子供はやってきた警察に連れて行かれました。

未成年なのできっと親の責任になるでしょう。


「ありがとうございました釣り人さん。」


「いえいえ。人として当然のことをしたまでです。」


「もし、よかったら竜宮城へあなたをご招待したいのですが。」


「竜宮城ってあの竜宮城?」


「はい!あの竜宮城です!」


「せっかくだし是非。ってあれ? よく見たらあなたニホンイシガメじゃないですか。海無理でしょう。それに人を乗っけるのだって無理では?」


「いえいえ大丈夫です。私についてくるだけでよいのです。それに竜宮城は後ろの山の滝の裏にあります。」


「え?なんか思ってたのと違う。」


「まぁまぁ細かいことはお気になさらず。」


男は自分の中の竜宮城像を砕かれながらイシガメについていきました。

やがて件の滝へたどり着くと1羽のカワウが飛んできて言いました。


「ようこそいらっしゃいました!竜宮城へ。」


「このイシガメさんの案内できました。」


「心得ております。我々川の生き物一同に乙姫様は感謝の気持ちでいっぱいで、すぐにでもおもてなしさせていただきたく存じます。」


「釣り人さん。このカワウはね。凄く情報が早いんですよ。」


「さすが鳥類。目が利くんだな。」


「ウの目タカの目といいますからね。」


「それ使い方合ってんのかな…」


滝をくぐり奥へ進むと、確かに竜宮城がそこにありました。


「いらっしゃいませ。貴方様。この度は従業員のイシガメを助けていただきありがとうございました。」


入り口まで進むと絶世の美女というべき女性が男にお礼を述べた。


「従業員?まぁいいや。もしかして貴女が乙姫様?」


「貴方様に様をつけてもらう必要はございませんわ。あ、申し送れました。私が竜宮城の主、乙姫にございます。ささ、こちらへ。」


乙姫の案内を受け宴会場に連れて行かれると、そこには豪勢な食事がたくさんありました。


「淡水の竜宮城には面食らったけど。料理が美味しくて最高ですね。」


「ありがとうございます。どんどん食べてください!」


「でも、まさか竜宮城でローストビーフだのサラダだの出るとは思わなかったけ  ど。」


男が子供のころに読んだ浦島太郎とは大分異なるものの、その料理に舌鼓を打ち、サービスを十分に堪能したのでした。


「あぁ楽しかったな。マスとイワナの舞踊りはめちゃくちゃ地味だったけど…」


「お気をつけてお帰りくださいね。」


「いや、ほんとありがとうございました。」


「そうそう。お土産に是非これを。」


「玉手箱ですか?」


「よくご存知で。当館自慢のお菓子がギュギュッと詰まった人気のお土産なんですよ。」


「え? あの…僕が知ってる玉手箱じゃないんですけど。あと今考えたらここ全体的にホテル感凄いんですけどいったいどうなってるんですか?」


「気づかれましたか…すべてお話します。竜宮城とは大昔から存在する老舗旅館なのです。経営難に陥っちゃって海の土地を売って、安い滝の裏を買って現在のス タイルになりました。それから海の生き物たちは出勤ができないとのことで全員退職しました。私乙姫は代々館長の家系というわけです。そして、玉手箱の件ですが、貴方様がおそらく幼少期にお読みになった浦島太郎では煙を浴びておじい さんになったという記載があったとおもわれます。あれは昔バラエティ番組によくある炭酸ガスをサプライズで入れていたのですが、勢いがよすぎて顔面にかか ると老人のように白くなってしまったというクレームがあって、その話がいつの間にかあのような話になっていたというわけがあるのです。」


「じゃあ亀を助けて連れられては…?」


「それは偶然です。もともと地上側にあった話のシチュエーションに見合うようなことを偶然貴方様がなさったのです。奇跡ってあるのですね。ただ、地上のお話の亀が竜宮城へ連れていく事に関しては昔行っていたサービスです。まぁ、いつ亀をいじめてるのを助けるというのが加わったのかはわかりませんがね。」


乙姫から淡々と説明され、呆気に取られていた男は驚きのあまり、一気に老け込んでしまいそうでしたとさ。



おしまい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る