第16話 その先

「まだ色々とこの玉座には仕掛けがあるが、特に見せたいものといえば、あとは……定番のあれだ……」

「定番のあれ?」

「玉座と言えば……あれだろう?」


 ……どれ?

 下半身だけしか見えないから今の表情が全くつかめないが、多分ニヤリと口角を上げているのだろうと予測する。


「この玉座を探ると、隠しボタンがある」

「隠しボタン?」 


 モカ様は、やっと上体を上げて、立ち上がった。


「どこに隠しボタンがあるか、上がってきて探してみろシズク! 制限時間は5分!」

「えっ!? 制限時間付き!?」


 ここにカダがいなくて良かった。絶対文句を言うだろうから。

 きっと奴は、あの鋭い目を更に吊り上げてこう言うのだ。


『魔王様! このような小娘に玉座を触らせるなど、お止め下さい!』


 モカ様のやることに、文句しか言わないのかと思う程だ。

 と、はたと冷静になる。


(……違うか。私が絡んでいるからか)


 だとしたら、余計に腹が立つだけだが。

 私は、ここにいないカダに腹を立てながら階段を登って、玉座を少し離れた場所から観察する。

 レバーは左右に二本ずつ、計四本。うち一本はリクライニング機能。そして残りの三本にもなにかしらの機能があるのだろう。内二本は高さ調整とフットレストかな、となんとなく予想がついた。

 玉座の背面へと回る。

 絨毯に少しばかりの違和感があったので、しゃがんで観察する。玉座の裏には、1メートル四方程の絨毯の切れ目があった。ここが穴だとすると、大きさは人一人分くらいだろうか。切れ目というやつは、隠そうとしてもなかなか隠せるものではない。毛が長いカーペットだったら、もしかするともう少し分かりにくいかもしれないが、この城の赤い絨毯の毛足は短い。

 

「モカ様。もしかして私に探させているのは、ここが開くボタン?」

「そうだぞ! よく気づいたな、流石シズクだ。……クックック! だが、これはしてやられたとは思っていない。あえてここが開くのだと教えているのだ。そうでなくては、我を倒した後勇者もそのまま死ぬかもしれないからなあ!」

「えっ、それはどういう……」

「さあ、探せ! 制限時間も残り4分だぞ!!」


 モカ様の言葉が気になったが、とりあえず魔王的余興おあそびの付き合いが先だと考えて、玉座へと視線を戻す。ぐるりと玉座の周りを回ってみるが、ボタンらしいボタンはない。


「見たらボタン、と分かるという感じではない何か……?」

「ほう、いい着眼点だ」

「玉座、べたべた触ってもいいんですか?」

「もちろんいいぞ! 我はもう死んでここにはいないというていで、それはもうべったべったと思う存分触りまくるがよい!」


(死んでここにはいないという体って……)


 私は、気になっていた玉座の天辺についている、一際大きな宝石に触れた。

 すると、その宝石はぼんやりと光りを放ち、ゴゴゴ、と何かが動く音がした。

 が、音がしただけで、背面の穴には変化はない。


「あと、3分!!」

 

 どうやらこのボタンは間違いか、それとも押すボタンは……一つではない? 

 ならば……。

 私は背もたれに着いているやや大きめの二つの宝石に触れる。するとこれもまた光り、更にまたゴゴゴゴゴ……とさっきより長くなにかしらの機械が動く音が聞こえた。

 あとは肘掛けについている宝石にも触れる。

 すると、やっと玉座の裏の絨毯にぽっかりと穴が開いた。


「やるな、シズク。記録は3分24秒だ」

「何のために時間制限が?」

「それは、この中に入れば分かる」


 そのぽっかりと開いた穴の中には階段が続いていた。 

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