閑話 4 だいたい、エロい。

「キュルムってさ、性的な事以外で真面目に考えてることってあるの?」


 最終決戦に挑めそうな服に着換えた後、また食堂に戻ってテーブル座った。モカ様たちを待つ間に、キュルムに訊ねる。


「やだぁ、アタシいつでも色々しっかりちゃっかり真面目にちゃ~んと考えてるわよぉ?」


 ほんとに?

 副詞が多すぎて胡散臭うさんくささがハンパないんだけど?


「でも、玉座の間で私が出した魔王城の欠点について何か意見とか異論とかないかって聞いた時に、ぼーっとしてたじゃん」


 キュルムがあのメンバーの中でも特に興味なさげだったのを、私はしっかり覚えている。会議内容さえも聴いていたのか怪しい表情だった。


「あー、あの時はねぇ、仕方なかったのぉ」

「仕方なかった?」


 モカ様とカダと六魔天将勢揃いの大切な会議で、その会議内容を聴いてなかったことを、仕方ないことだとキュルムは言うのか。


「私の中のリビドーが大爆発ビッグバンを起こして、その膨張はとどまることを知らず、頭の中が妄想でいっぱいになっちゃったの。ネームが溢れ出て止まらなくて。一言でも喋ったら18禁ワードが口をついて出そうだったのよぉ」

「ネーム……?」


 名前が溢れ出て止まらない???

 ちょっと意味わかんない。翻訳、ちゃんと機能してる……?


「あ、ネームっていうのはね、漫画のセリフとかコマ割りとかおおまかに書いた物の事よぉ。絵コンテとか、ラフとか言った方が分かる?」

「下書きじゃなく?」

「ん~、下書きのもう一段前になるかしらねぇ?」


 なるほど。

 よくわからないがなんで会議に集中しないの、このサキュバスは。


「で、それがなんで会議中に膨張しだしたの?」

「えっ、それはその、玉座に座るモカ様とその隣に立つシズクが余りに神々しくて。シズクがカダをやり込めてるところとか、モカ様のテヘペロも可愛かったし、妄想が止まらなくなっちゃってぇ」 

 

 椅子に座りながら、股の間に手を挟んでもじもじと身体を揺らすキュルム。

 その手を股からどけろ。


「うん、つまり……?」

「頭の中で二人の18禁ストーリーを100 P余りの超大作として作成していましたぁ!! モカ様は見た目は幼女だけど186歳だから超合法! シズクは16歳って聞いたけど、こっちの世界の16歳は制限はあるけど成人扱い!! 今度、本にして出すつも――」

「させるかぁ!!」


 超高速で、キュルムのこめかみを掴む。


「ひにゃああ!! それほんとに痛いのぉ! やめてシズクぅ!!」


 キュルムが私の手足が長いと褒めてくれたが、私は実は指も長い方だ。

 キュルムの顔はモデルみたいに小さいので、アイアンクローもしやすい。アイアンクローにちょうどいいサイズ感だ。

 もしかしてキュルムはアイアンクローをされる為に生まれてきたのでは?


「そんな本を作って、一体誰に読ませる気!? 誰に読ませるつもりで描くわけ!?」

「ア、アタシの新刊を待つ、同士たちよぉおおおおおお!!」

「なんの同士だぁああああああ!!」


 容赦なく力をどんどん込めていく。


「い、言わない、絶対に言わないわぁああああ!! 純粋な暴力なんかにアタシは屈しないんだからぁああああ!! アタシを屈させたいなら、オークのおピピピー、かオーガのピピピぽー、もしくはミノタウロスのピちピピーを用意しなさい!! それで私に催淫剤を飲ませてピピピー、ピピピ!! ピピピ!! ピピピー!! 」

 

 放送禁止用語を連発するな!!


「うるさいぞ貴様らぁああああ!!」

 

 いつの間にか、カダが厨房から出てこちらに近付いてきていた。

 キュルムから手を離すと、彼女はビクンビクン痙攣けいれんしながら、テーブルに顔を突っ伏した。


「さっきからなんなんだ貴様らは!! こっちは勇者と魔法使いが来ると聞いて、気が気ではない状態で仕上げ準備をしているというのに!!」

「キュルムに、性的な事柄以外で真面目に考えることがあるのか、という質問をしたらこんなことになっただけ」


 カダは、一つ鼻を鳴らして、答えた。


「ああ、なんだ。あるぞ、一つ」

「えっ!」

 

 いつもいつも頭の中がピンク色でいるわけでは、ない?


「ちょっ! やめなさい、カダ! 私の頭の中はピンク一色! それ以外の何かが入り込む余地なんてないわぁ!」


 そっちを否定しちゃうのか。

 カダを止めようとキュルムは立ち上がって回り込むが、カダは凄いスピードで逃げる。テーブルの周りをグルグルと回りだす二人。

 二人とも本気なのか、ちょっと眼で追えない。残像みたいなのが見える。


「こいつ、花を育てるのが好きなんだ」


 声がドップラー現象を起こしていて聴こえ辛い。止まってくれないかな。


「キュルムって、花を育てるんだ?」

「ちっ、違う! その、それは花を性的な意味で見てるだけ!! おしべやめしべを丸出しにしている花を見て、たのしんでいるだけ!!」


 いつもの状態でキュルムがそう言うと、なるほどそういう目で見ているのかと思うのだが、こうも焦った状態で言われると、どうやらカダの言っていることが本当らしいと分かる。


「こいつの生み出した新種は、人間たちにも広まっていて、観賞用に使えるものだけじゃなく医療用に使えるものなんかもあるぞ。この前は人間に広まった疫病に効く花を作っていたな」

「それは、魔族であるアタシの生み出した花たちに虜になる人間たちが見たいだけ! 魔物でも育てられる花を作りたくて頑張ったとか、花を育てることそのものが好きなわけじゃないんだからぁ! 上手く咲いた花をこっそり人間の村近くに植えに行ったりしてないんだからぁ!!」


 真っ赤になりながら、焦って暴露するキュルム。

 こんな可愛いキュルムを見るのは初めてだ。

 そうだ、確か魔物は育てることが苦手だと言ったが、改良は出来ると言っていた。

 ある程度人間が育て方や交配をマニュアル化してあるなら、それを改良してより良くすることは、魔物にも可能なのだ。


「なんだ、凄いじゃん。キュルム」

「ふぇ!?」


 走り回っていたキュルムがぴたりと止まる。


「うぐっ!」

「キャッ!」

 

 キュルムがいきなり止まったので、逃げていた筈のカダが追いついて後ろからぶつかった。

 

「え、す、すごい……? アタシが?」

「うん。凄いよ」

 

 キュルムは耳まで赤くなって、湯気まで出ている。

 普通に答えたが、そういえば六魔天将って褒められ慣れていないんだったっけ?


「あにょっ、そにょっ、うん、うん、嬉しい……。アタシ、もっと、お花育てるの頑張るわぁ! シズクの為に、シズクをイメージしたお花を咲かせたら、受け取ってくれる?」

「うん、もちろん!」


 キュルムの新たな一面が見れて、なんだか少し嬉しくなってしまった。

 いつもこんな感じで普通の女性っぽければ、プロポーションのいい超美女なのに。


「あ、でも花って大体おしべとめしべが丸出しでやらしいのは、間違いないわよね?」

「花に対して丸出しという言葉のチョイスは、普通しない」


 折角いい感じに終われると思ったのに、結局そこに行きつくのかと、私はため息が出たのだった。

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