第21話 2クールアニメにありがちな総集編的なやつ

「メコミット、なぜ転移装置が必要なのか、という話はカダから聞いたか?」 

「は、はい。勇者を、この魔王城内で転移させる為だとお聞きしました」

「そうだ、どうやら我は我のやりたいように城を作った結果……勇者に厳しすぎる城にしてしまったようなのだ。我は万全の状態の勇者と戦いたい。階段を登って疲弊した勇者と戦う意味などないのだ。転移装置があれば、勇者も一度外に出て準備をし、また我が玉座の間の前に飛んでくるということが、可能になるだろう」


 まあ、逆に勇者に甘すぎる気もしないでもない、というのも正直な気持ちではあるけれど。目的が『魔王を倒せるほど強い勇者と戦う』ということなのだから、そのくらいでちょうどいいだろう。

 大体のRPGは勇者側に甘く作ってあるし。


僭越せんえつながら魔王様、魔王様が勇者に厳しい城を作るのは、普通の事では? ワシとてそうしますが」


 そう言ったのは、バンドウだった。羽根を上げて、そう意見する。外側は茶色っぽい色味だが、内側は白くてふかふかした、綺麗な翼だ。雄々しさの中に優美さも感じられる。ドラゴンキングの鱗とバードマンの羽根を組み合わせると、何か新しい強力なアイテムが出来そうな気がした。


「だが……。いや、シズクに話してもらう方が早かろう。説明してやってくれ」

「あ、うん」


 と、返事はしたものの……、どこから話すのが適当なのか。


「えー、じゃあまず、今まで出た魔王城の欠点をおさらいするね」

「魔王城の欠点、だと……!?」


 そのセリフはもう既に聞いた。


 ――一つは削除するとして、それでもすでにモカ様に伝えたは欠点は四つ。


 ☆魔王城の欠点その1 入口が二つある

 ☆魔王城の欠点その2 扉を開けたら五秒で執事

 ☆魔王城の欠点その3 移動が不便すぎる

 ☆魔王城の欠点その4 勇者用の脱出ポッドがある(削除予定項目)


「四つの内の一つ、脱出ポッドは削除予定。で、これらの欠点は、勇者の育成や勇者が万全の状態でモカ様と戦うということには反していたり、必要ないと感じたりした物ね。残っている欠点に対して、欠点ではないという反論があるんだったら、どうぞ」


 この場にいるメンバーが、考え出す。ある者は顎に足や羽根を当て、ある者は頭を抱えて。ぶつぶつと呟いているのは、メコミットだ。数人は考えるのを放棄しているのかボーッとしている。


(やる気ない勢多いな。本当に勇者を育てる気があるの……?)


「入口が二つあってもよいのでは? どちらから入ったとしても、魔王様の玉座の間には着けますし」


 おずおずと言い出したのは、メコミット。


「あ、それね。それは、魔王城の中を知ってるから言えるんだと思うんだ」

「中を知っているから?」

「そう、勇者は間違いなく初めて魔王城に入るわけで。しかも敵の親玉の根城だよ? 絶対どっちかの扉が罠なんじゃないかって迷うと思う。まあ、私が考え過ぎかもしれないけどね。でも、特に入口の扉が二つの意味ってないんだよね? ただ、建てる時にこの建物が一棟じゃ足りなかっただけって、聞いたんだけど」

「え、ええ……。もう少し技術力が高ければ、可能だったと思うのですが……」

 

 メコミットはしょんぼりしてしまう。もしかして、この魔王城の設計者はメコミットなのか、と気付いた。


「それについては、私個人的には繋いだ場所に玉座の間を配置してるように、一階のエントランスも繋いでしまえばいいと思うんだけど、それはできる? で、二棟それぞれにある扉は塞いじゃう」

「あ、それでしたら、最上階を繋ぐよりも簡単にできます! お任せ下さい」

「あと、出来ればどこかの階で空中回廊的なものも、あるといいかなって」

「なるほど、勇者が二棟を途中で行ったり来たりできるようにですね? さっそく取り掛かりたいと思います」


 顔がコオロギなので、イマイチ表情が掴みにくいが、どうやら喜んでいるようだ。 

「勇者が来るのはまだ先だろうから、そんなに急ぐことじゃないけどね。他には――?」 

「執事のセバスが出て来るのは別に欠点ではないのでは? むしろ、田舎者の勇者の事、『ホンモノの執事初めて見た!』とテンションを上げて、戦いに臨めるのではないかと思いますが」

 

 そう言い出したのは頭の良さそうに見える八本足の蛸、ハッサンだ。

 なるほど、『ホンモノの執事初めて見た!』と、学〇マンガばりにあのピュア勇者がテンションを上げるであろうというのは、容易に想像できる。旅の途中で他の執事に会うことがなければ、の話だけど。

 

「……勇者は魔王城に魔王を倒しに来るのであって、執事を見に魔王城に来るわけじゃないでしょ? それに元々、どうやらモカ様はセバスさんの正体をクイズとして出すつもりだったらしいんだよね」

「えっ、何のために?」


 そうだよねー! 『何のために?』ってなるよねー!!


「ええと……、私が持っちゃってるんだけど、この剣……オリハルコンの……」

「ハルコズソード・改ⅢエボリューションブラックRXプラチナムver.」

「……ハルコズソード・改ⅢエボリューションブラックRXプラチナムver.を、勇者にプレゼントするための企画というか。それを私が先に答えちゃって」

「魔王様、勇者に渡す予定の装備をシズクに渡してしまったので?」

「うっかりシズクにクイズを出してしまったのだ」


 ウインクしながらテヘペロ☆と舌を出したモカ様。あざと可愛いにも程がある。思わずため息を吐いてしまうほど可愛い。

 テンションが上がり過ぎてティッシュペーパーを出しまくり、その後私に見つかった時に、上目使いを駆使しながら手を舐めまくってきたモカを思い出した。

 モカの事を思い出している最中に、「モカ様のテヘペロ頂きましたぁ!」と、小さく、しかし興奮した声が聴こえた。キュルムだ。


「出したクイズにシズクが答えた以上、渡す予定だったものを渡さねば魔王の名がすたるであろう?」

「た、確かに! 魔王様は約束を違えぬお方ですから……」 


 ハッサンはその通りとばかりに頷く。

 『た、確かに!』じゃないけどね?

 勇者にあげる予定の物だったんだから、私には別の物をプレゼントして、剣は勇者にあげれば良かっただけの話だ。もっと言うなら、それ以前に私にクイズを出さなければ……。


(――誰か、モカ様の暴走を止められる人間はいないの?)


 いないんだろうな。いないからこうなっているわけで。


「そのクイズの為にあそこにセバスさんがいたらしいから、それはナシにしようという話で。元々モカ様の執事だし、エントランスにいる必要もないしね」

「そうでありましたか」


 どうやら、これも納得してもらえたようだ。


「――で、最後の移動が不便すぎるという項目なんだけど、それはさっきモカ様が言ってたとおり。城の中で勇者たちは転移魔法を使えないらしいし、単純に、階段が多いと勇者が疲弊するっていうこと」

「なるほど」


 全員、うんうんと頷いている。

 何人かは場の空気に流されて頷いているように見えるが、一応分かってもらえたようなので、あえてこの場で、魔王城がタワマンであるが故の欠点を話しておこうと思う。


「もう一つ、これは私もどうすればいいのかちょっと解決策が見えないんだけど……」

「なんだ?」


 モカ様がそう私に訊ね、この場にいる全員がが興味津々に私を見る。


「魔王城のね、部屋数が多すぎると思う」

「部屋……数。え、でも、それは……、だって……」

 

 まさに、愕然といった様子のモカ様。


 ☆魔王城の欠点その4改 部屋数が多すぎる


 そうだよね、だって自分好みの面白オモシロ生物を詰め込みたいが為に、この作りになったんだもんね。そう言われてもどうしようもない問題なんだと思う。

 それが分かっているから、私も困っている。

 城にいる魔物達を追い出すわけにもいかないし、どうすれば解決できるのだろうか?


「ま、まま、魔王城の部屋数が多いことに、にゃにか勇者にとって支障が……?」 


 少し震えた声で、モカ様がそう言う。動揺が激しい。


「私が勇者の場合、で考えて言うけど……。まず、勇者は片っ端から部屋を開けていきたい」

「……それは、なぜだ?」

「なぜだもなにも、モカ様私に剣を渡したの忘れてないでしょう? 魔王城には、今まで自分が使っていた装備よりも、強い装備がんだよ。その装備を持って魔王に挑みたいのは当たり前じゃない」

「だが、装備できるものには限りがあるぞ……? ないかもしれないし」

という気持ちで動くんだから、ということは、もちろん考えないんだよ。探索をやめられないのが冒険者の性なの。それに、装備できなくても売ればお金になるし」


 私は、そう言い切る。


「その度に、この魔王城に住んでる魔物たちと戦ってたら、玉座にいつ辿り着くのかっていう……。一部屋に一匹とかならまだしも、モカ様が言ってたけど、何匹か一緒に部屋にいるんだよね?」

「ああ。だってその……気が合う者たちは、一緒の方がいいかなって……」

「戦えない魔物も、あと、魔物じゃない生き物も当然いるんだよね。このお城の中に」

「ああ、いる」

「その生き物たちの部屋に勇者が入らないようにもしないといけないし」

「……」


 しょんぼりするモカ様が、気になって仕方ない。なんか虐めてるみたいで辛い。

 もうこれどうしたらいいの、ほんと……。

 勇者側に立てば、この魔王城は本当に勇者泣かせだ。多分、魔物じゃない生き物を倒しても経験値も入らないだろうし、倒し損だ。

 でも、モカ様は気に入った魔物や動物たちを近くに置いておきたいが為に作った城で。

 すでに、当初のコンセプトが勇者を置いてきぼりなのだ。

 せめて、この魔王城が建つ前に転生できていれば少しは変わったかもしれないのだが。


「いや、まあこの問題に関しては、転移装置があれば、近くの村に勝手に戻ったりするだろうから、このままでも何とかなるといえばなるかなとも、思うんだけど……」

「勇者を入れない予定の部屋に、鍵を掛けて入れないようにしてはどうだ? そうすれば、魔王城内で探索できる場所自体は狭まるだろう」


 カダがそう言うが――。


「この世界には、どんな扉も宝箱も開けちゃう鍵って、ないの?」

「……」


 誰も答えない。――が、皆、目線がふわふわと忙しなく動いて定まらない。

 それは……答えているのと同じだ。


「あるんだ? あるから黙ってるんでしょ?」

「……アカシックキーという、どんなものも開いてしまう鍵が、この世界には存在する。多分、勇者のことだ、旅の途中でそれを見つけるだろう」

「開いちゃうじゃん」

「開くな」

 

 ……これは、難題だ。


 みんなで頭を捻っていると、今度は黒ではなく三毛猫の忍者が飛び込んできた。会議中に猫が飛び込み過ぎだろう。そういえば学校でも時々犬やら猫やらが校舎に入り込んできたことがあったけど。

 ひとまずこれは、持ち帰って各自で解決策を考えてもらうのがいいかもしれない。


「魔王様~」


 こちらに走りながら、鈴の鳴る様な可憐な声でモカ様を呼ぶ。

 猫の忍者何人いるんだろう。

 

「どうした、ニャチル。魔王城周辺になにかあったか?」

 

 なるほど、ニャチルはこの魔王城の周辺監視をしている忍者なのか、とそのモカ様の一言で気づく。


「人間どもが来ましたにゃ~。数は、およそ8000ですにゃ」


 ぺろぺろと顔を舐めながら、ニャチルと呼ばれた三毛猫忍者はそう告げた。

 

「えっ!?」


 それって、魔王城を数で攻めに来たってこと? 

 驚いて声を出したが、誰もがみなとした顔をしている。

 なぜそんな顔になるのかさっぱりわからず、私は一人で驚いたことが恥ずかしくなってくる。


「今日は、誰が行くのだったか?」

 

 そう言い出したのは、バンドウだ。

 え、誰が行く? 誰が行くって、どこに? まさか、戦いに……一人で!?


「あっ、今日はアタシ!」


 そうキュルムが、ブルルンと胸を震わせながら腕を真っ直ぐに上げた。


「そうか、今日はキュルム――」 

「待て。今日は……我が行こう」


 ニヤリと悪い顔で笑って、モカ様が立ち上がった。

 訳が分からず私はオロオロとしていたが、そのモカ様の一言で、皆がざわつきながらモカ様を見上げる。


「魔王様が? しかし、キュルムでも十分に事足りるかと思いますが……」

「シズクが仲間になったことだし、力を魅せておきたい。それに……お前達も久しぶりに我の力を観たいであろう? 我が伊達に魔王ではないという所を、時々は魅せておかないとなぁ」


 そう冷笑して、モカ様はざわりと空気を震わせる。

 これは、モカ様が戦闘に赴くということだろうか……。


「今まで魔王様のお力を疑ったことなど、一度もございませんが」

「そぉですよぉ。ズルいですよ魔王様、今日はアタシの日だと思ってたのにぃ」


 ぷりぷりとキュルムが怒る。それをどんこ婆が嗜めた。


「魔王様が出ると言う時は、きのこたちの意思など関係ないきのこ。キュルムは譲るきのこ」

「はぁい」


 ちぇっ、とキュルムは口を鳴らして下がる。

 モカ様の力――、あの分厚い窓ガラスを貫通させた魔法は使わないと言っていたけれど、他にもきっと凄い魔法を使えるはずだ。


(見てみたい――)


 私は、ごくりと喉を鳴らす。少し、笑っていたかもしれない。

 自分が悪だとも正義だとも、考えたことはなかった。ただそこに生きて、そこにいただけの私が、こんなにも何かを渇望することなど今までなかったのに。


 モカ様の力は、どれほどのモノなのか。

 どれほどの絶望を……彼女はヒトに与えるのか。

 体が昂り震えるほどに、私はソレを欲した。


「準備をしろ」

「はっ」


 私とモカ様以外の全員がその部屋から出ていく。

 が、最後にエメスが残ってこちらを振り返った。どうかしたのだろうか?


「……城の入り口の、扉、オデも最初この城が出来た時、押した。間違う奴、割といる。だから、気にすること、ないど、シズク」

「!!!!」


 カダぁあああああ!! あの野郎本当に言い触らしてやがった!!

 その有言実行っぷり、鬼畜の如し。


「う、うん。その、ありがとう」


 こっくりと頷いて、エメスは重い足音を響かせながら出て行った。

 表情は、よく分からなかったが。


(なんか、基本的にみんないい魔物たちなんだよなあ、カダ以外)


 そしてぽつりと――ああ、そういえば集まったのに結局全然転移装置のことを話していないなと、また思い出したのだった。

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