第20話 自己紹介は簡潔に 2
「勇者を足止めしてたのは、ドラゴンキング……ルドルフ。で、ルドルフはモカ様から招集を受けて、今あそこに誰もいない。ドラゴンキングほど強い代わりの魔物がいたら、多分勇者が隣村まで進めていないと思うし」
「あ、ああ……代わりの者は置いていない。あそこはオレの定位置。村人にも、少しここを空ける、と言って来ただけだ」
村人と普通に交流があるの? 勇者を殺す魔物が?
気になったが、進める。
「勇者は、いつもいるはずのドラゴンキングがいないことに気付くだろうけど、勇者の目的はドラゴンキングと戦って勝つことじゃなく、隣村に行くこと。そもそも村の前に、旅立つ時までいなかったドラゴンキングがいる事の方がイレギュラーなわけで。疑問に思いながらもそのまま抜ける。で、隣村への道中では、ドラゴンキングとは比べ物にならない弱さの敵と出会うよね。手も足もでなかった強敵ドラゴンキングと違って、自分がちゃんと戦って勝てる敵がいる。嬉しくて仕方ないだろうし、途中で魔物を見つけては戦いまくりながら進むはず。戦えば戦う程、レベルも当然上がる。だからレベルが3から10くらいに上がってもおかしくないと思う」
ざっと、私の予測を述べた。
話を聞いていると、単純で純粋らしい勇者の行動だ。予想もしやすい。恐らく間違えてはいないと思う。
勇者が隣村に着けなかったのが異常なのであって、普通ならあっさりと到着できていなければおかしい。RPGだって、序盤はサクサク進んで少し苦戦し出すようになるのは中盤からだし。
それまで他の魔物たちと同じように驚いた顔をしていたモカ様だったが、不意ににやりと笑う。
「シズクの言っていることは当たっているか? どうなのだ、ニャンゾウよ」
「そ、その娘の言うことに間違いありません、魔王様。勇者は道中楽しそうにスライムなどの低級魔族を倒し、倒す度に喜んでガッツポーズをして跳ねまわっていました」
そう答えたニャンゾウという名前の黒猫と、それを聞いて何も言わない他の魔物たち。
勇者は魔物を普通に倒せたのがそんなに嬉しかったのかと思うと、さらに不憫さが増した。
シーンと静まり返った玉座の間は、なんだか少し怖い。
(私、やっちゃったかも?)
モカ様は、顔を伏せたかと思うと、歯の間から笑いを漏らした。そして、堪えきれなくなったのか、豪快に腹を抱えて笑い出した。
「クッ、クッ、ククククッ! あっははははは!!」
玉座の間に魔王の笑い声が響き渡る!
ひとしきり笑い終えると、モカ様は嬉しそうに八重歯を見せてにんまりと微笑む。
「は~。笑った笑った。まさか、ここまでとはなあ。さて、先ほどのシズクの話、まるで見たかのようだったが、シズクは我と一緒にこの城を回っていた。例え宝玉を隠し持っていたとしても、勇者の状況を知ることなど不可能だったと、魔王たる我が証明しよう。その上で、この予測を立て当てたシズクを、我の傍に置くことに反対する六魔天将はいるか?」
モカ様が、六魔天将の顔をじっと見ながら、そう問い掛ける。
「はいはーい! アタシは、シズクが傍に居るのに賛成でぇす、魔王様~」
最初に声をあげたのはキュルムだった。
「シズク可愛いし~、黒い髪の女の子ってなかなか見ないしぃ。魔王様と並んでる二人を見て、アタシィ、ビビッときちゃいました~。新刊はこれで決まりぃ!! だから、サキュバスクイーン キュルム・キュラリアは大賛成ぃ~!」
私のことを認めたというよりは、不純な動機からのようだが、賛成には違いないらしい。あれ、今新刊って言った?
「オレ、ドラゴンキング ルドルフ・ドラゴムも、賛成だ」
続いて、ルドルフも声をあげた。
「わたくし、オクトパスメイジ ハッサン・トーソクも、元より賛成でありますぞ」
でっかい蛸……!!
「ワシ、バードマン バンドウ・ヨクトーも、反対などするつもりはない」
鳥の人……!! あっバンドウさん、顔に似合わず割と高音の澄んだ声なんだね。
「オ、オデ、グラウンドメーカー エメス・ゴランドも、賛成だど」
ゴーレム!!
「きのこ、マッシュルームヘッド ドンコ・オーイタは最初見た時から賛成だったきのこ」
どんこ婆!! そんな名前だったんだ!!
(ありがとうみんな!! さりげなく簡潔な自己紹介嬉しい!!)
「六魔天将の中に反対者はいない。どうだ、カダ」
少しイジワルな声で、モカ様がそうカダに呼び掛ける。モカ様の瞳は凛と光っているものの、カダがどう返すかで咎めるような気持ちはなさそうに見えた。
ここで、カダがどう出るか。
私以外の魔物たちもカダの言葉を待った。
「ここまで力を見せつけられて、それでも……私はシズクが魔王様の傍に居るのは反対だ――、とは言えません。元より、私がいくら反対しようと、魔王様が今まで自分の意見を変えられることはなかった。それなのに、シズクの言うことはすんなりときくのですから……。魔族は実力至上主義。力がある者が許される。私が恐れているのは、シズクが勇者側の者であったらということ、その一点に尽きます。しかしシズクは魔王様を裏切らないと我々の前で宣言した。
溜息交じりにそう言ったカダ。その瞬間に、わっと場が盛り上がる。
恐らく、他のみんなが盛り上がったのは、カダも認めたという点だっただろうが、私は少し違う意味でぐっと拳を握る。
(――勝った!!)
「魔王様の慧眼、お見事ですニャア」
「そうですね、そうですね!」
ニャンゾウとメコミットが大きく頷いている。
玉座前に出ていたキュルムが、こちらに投げキッスをしてくる。
「シズク、これからよろしくねぇ♡」
すると、それにつられたのか、六魔天将が次々に私に挨拶してきた。
「よろしくな」
「よろしくお願いしますぞ」
「よろしく頼む」
「コンゴトモ、ヨロシク」
「よろしくきのこ」
「うん――、よろしく!」
私は満面の笑みを浮かべて六魔天将と挨拶を交わした。
これから、一緒に勇者を育成していく仲間だ。
「ふっ、我の認めたシズクだ……。六魔天将にも気に入られるとは思っていた。我の読みも当たったということだ。さて、これにて魔族会議は終了――」
「なんでそうなるの!?」
「えっ!? どっ、どうしたシズク」
私の声にびっくりするモカ様に、こっちがびっくりしてしまった。
「シズク、なにを怒ってきのこ?」
「いや、怒ってないよ? 怒ってないけど……ちょっと待って? 私を認めてもらえたのは嬉しいけど、元々転移装置の話をするから集まったんだよね? 何を普通に解散しようとしてるの?」
「あっ」
思い出した様子で、モカ様は小さく声をあげた。他の魔物たちも、『あっ』という顔をして眼を泳がせている。迂闊すぎる。
「メコミットさん、あなたの持ってる本、それ……転移に関する本、でしょ?」
「は、はは、はい。そうなのですね、シズク様。異世界人なのに、表紙に何が書いてあるのかがお読みになれるのですか? 普通にお言葉が通じていますし、こちらの世界の言語と、シズク様の世界の言語が同じとか?」
メコミットは驚きながらも少しワクワクした顔を隠さず、質問を返してきた。
「いや、なんで言葉が通じるのかは、私も知りたいくらいなんだけどね。こちらの世界の文字は読めないよ。その表紙も、なんて書いてあるのか読めないけど、この会議に開発部長のメコミットさんが呼ばれて持ってくる本といったら、その関係の本しかないでしょう? 料理の本をこの場に持ってくる意味ある?」
「はっ! そうでございますね」
こんな実りのない会話、初めて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます