第三章

第18話 魔王様だよ、全員集合!!

 ◇ ◇ ◇


 階段を上がると、セバスがそこに待っていた。にこにこと微笑みを絶やさず、彼は私に布に包んだ何かを差し出した。


「……? え、私に?」

「はい、そうでございます」


 疑問に思いながらそれを受け取ると、ゴロゴロとした何かが入っていて冷たい。中に氷が入っているようだった。


(あっ、これで目を冷やせってことか……。セバスさん有能ッッ!!) 


 私がそれを目に当てると、セバスは満足げに頷き微笑む。


「シズク様の目元が腫れていては、可愛いお顔が台無しでございますからね」

「ひぇぅ!? はえ、あ、ありがとうございます」


 さらりと持ち上げられて、声が上擦る。

 う、うまいな~、この人……。生きてる時絶対モテてたな、これは……。声もいいし。

 私に氷嚢を渡した後、セバスは玉座の裏の階段を覗き込みながら、「この玉座の裏は、こうなっていたのですね」と、呟いた。


「セバスさん、知らなかったの?」

「ええ、魔王様の玉座をわたくしが掃除の為に触っても、先ほどのように反応いたしませんから」

「えっ? そうなんだ? 幽霊だから?」


 どうやら掃除は出来るらしいのに変なの、と思っていると、魔王様が答えてくれた。


「いいや、幽霊だからではなく、だ。セバスが生きていたら反応しただろうな。城にある宝箱なども、勇者と同種である人間が触らねば反応しないようにしてあるのだ。城にいる者たちにパカパカと宝箱を開けられても困るだろう? まあ、そのようなことをする者はいないだろうがな。だがシズクは勇者と同じ人間だから、どの仕掛けも反応する」

「じゃあ私は城にある宝箱開け放題なの?」


 魔王城にある宝箱なら、ほぼ最強の武器防具が揃っているに違いない――あっ、そういえばやたら長ったらしい名前の剣……ハルコさんが作ったブラックRXプラチナム? とかいうの貰ったな。あれは宝箱からじゃなかったけど。

 私は剣を振れないことはないけれど、これから先剣を振ることがありえるかもしれない。このままでは、少し心もとない。

 誰か強い魔物がいるなら剣とか教えて貰って、その時カダ抹殺の為に――間違えた、モカ様を守るために備えておくつもりだし、後でモカ様に誰か紹介してもらおう。


「ああ。ただ、宝箱が開け放題なだけならいいが、落とし穴や壁から突き出る槍なども反応してしまう」

「えっ!? それ、困る」


 私は加護とやらがないから、勇者みたいに死んでもよみがえれないと思うし。


「だからシズク自身でその場所をけてもらう必要がある。セバス、六魔天将との会議の後で、罠のある場所を書いた紙をシズクに用意してやってくれ」

「かしこまりました」

「罠が多いのは下の階で、上階にはこのような罠はない。上階で過ごす分には問題はないだろうと思うがな」

「そうなんだ」


 玉座のある場所から下に降りようとすると、玉座正面の階段下からにゅうっポンッとどんこ婆が生えてきた。


「!!」


 いつ見ても心臓に悪い。


「魔王様~。カダと六魔天将、あと必要かと思い開発部長のメコミットも呼んでおいたきのこ」

「おお、どんこ婆、気が利くな」

「全員入れてもいいきのこ?」

「ああ。セバス、ドアを開けてやってくれ」


 それを聞いて、私は階段を降りようとしたが、制止される。


「シズク、降りなくてよい。我の横にいろ」

「えっ、うん……」

  

 そんな偉い魔物たちが勢揃いするというのに、人間の私がモカ様の横にいていいのだろうか。

 セバスがふっと消えて、入ってくるカダと六魔天将たちの為に玉座の間の扉を開きに行った。

 私は柄にもなく緊張し、ゴクリと喉を鳴らして、彼らが入ってくるのを待った。


 ロングのつやつやストレートをなびかせながら、魔族のNo.2であることを厭味ったらしく見せつける様に(偏見が少し入っているかもしれない)颯爽と入ってくるカダの後ろには、ズシンズシンと超重量系の足音を響かせる、恐らくどう見てもドラゴンキングであろう金色こんじきのドラゴン。5mほどの巨体だ。彼の為に扉が大きいのだろうか。そしてその次はフワフワと黒に近い紫の羽と尻尾をはためかせながら浮いて移動してくる、縦セーターワンピースを着たセクシーな長髪美女。なんというか、すごい。……胸とお尻が。なにあのは。不二子ちゃんかな?

 ……ん? よく見ると、違う。来てる服……ただの縦セーターワンピじゃない。


(脇と背中が開いて、横から胸が見えてる。あと、お、お尻の割れ目も……!! あれは――伝説の童貞を殺す服!!)


 着ている人を、初めて生で見た。あんな恰好をする必要のある魔物といえば、超有名な精を吸い取るあの魔物しかいないだろう。


「モカ様、カダの次に入ってきたのは、ドラゴンキングだよね?」

「ああ、そうだ」

「その次のすごいセクシーな恰好をしているお姉さんは……もしかしてサキュバス?」

「よく分かったな。そう、彼女はサキュバスクイーンだ。最近は童貞狩りをしている。サキュバスは狩る相手をローテーションする。童貞、素人童貞、非童貞――とな。その中でも童貞がお好みだ。なぜなら童貞は、溜まりに溜まった性欲を女にぶちまけることに掛けては、他の非童貞たちの追随を許さ――」

「モカ様、ストップ。いい、サキュバスの生態の説明とかは。彼女がサキュバスだと分かっただけでいいから」

「そうか?」


 幼女ではないけど見た目幼女の口から童貞とか溜まった性欲とかいう言葉、聞きたくないし、私も女子高生。まだ16歳だから。

 分かってるよ!? モカ様が186歳だって! 分かってるけども!!

 逆に私に対してデリカシーを持っていただきたい。


 気を取り直して、その次に入ってきたのは、鳥人間。あれはまごう事なき鳥人間。頭の部分の毛は白く、体は濃い目のブラウン。黄色い瞳で顔はワシっぽい。大きな羽根に、足は尖った鉤爪。間違いなく鳥人間だ。アメリカの国鳥、ハクトウワシのような見た目だ。

 その後ろには蛸人間。蛸人間? ……いや、あれはでっかい蛸だ。にょろにょろと足を動かしながら進んでくる。カツカツと足……手? の一本に持った古めかしい木の杖の音が響く。八本も足があるのに杖いるかな? と思ってしまった。多分、魔法を使う時に必要なのだろう。

 そして、ゴーレム。石でできている乳白色の普通のゴーレムだ。目が青白く光っている。中に原子炉でも詰まってるのかな。こわっ。

 背筋を丸めてゴーレムの後ろをオドオドと歩いてくるのは、コオロギのような顔をした魔物。眼鏡を掛け、白衣姿で大事そうに分厚い本を抱えている。あれが開発部長のメコミットだろうと推測する。なぜそう思ったかというと、正直、彼? 彼女? があまり強そうじゃないように見えたから。あと、白衣を着ていたから。

 そして一番後ろにはセバスがいた。

 玉座に近付くと、全員持ち場が決まっているとばかりに赤い絨毯の両脇に控える。メコミットだけはあまりここに来ることがないのか、オロオロしながらゴーレムの横に並んだ。

 カダが一歩前へ出て、モカ様に向かって叫ぶ。


「魔王様、親衛隊長カダ、六魔天将、メコミットここに!」

「うむ、よく集まってくれたな。みな楽にせよ」

「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」

 

 そう言われても、当然のように彼らが姿勢を崩すことはなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る