第8話 魔王城の管理きのこ
今度こそ、ドアを開く。
エントランスとは違い、長い廊下にはすでにランタンが灯っており、真っ赤な絨毯が敷かれている。外はコンクリートだったのに中はなぜか赤黒いレンガ造りで、少し頭が混乱した。
中もコンクリートむき出しの造りで良かったんじゃないの? と思いながら、きょろきょろあたりを見回すと、長い廊下の先を、腰の曲がった誰かが歩いているのが見えた。
「おっ、あれは……。ちょうどいい。紹介しておこう。どんこ婆! 新しい入居者だ!」
入居者か。
間違えてはいないけど、一般的に城に対して使う言葉ではない気がする。お城を沢山所有している人だったら使うのだろうか。悲しいことに見た目はタワマンだからしっくりきてしまうのだが。
どんこ婆、と呼ばれた老婆らしき人物は、こちらを振り返って、さかさかと速足で近付いてきた。
速っ! お婆ちゃんなのに、近付いてくるのめっちゃ速い。妖怪ターボ婆ちゃん!?
(お、おお……、これは……)
老婆の頭から、にょっきりと生えているのは……、まいたけ? え、まいたけ……だよね??? 確かにあんな髪型のお婆ちゃん、時々見るな。
目元は深く刻まれた皺と、落ち窪んでいるせいであまり見えないが、眼光は魔物らしく鋭い。
目元だけでなく顔全体にも深い皺を刻んだ老婆は、くっきりとした色味の紅い口紅を引いた口をにやりと持ち上げる。
「ほうほう、魔王様、ま~た拾ってきのこ? 変なものが好きのこねぇ」
と、からからと笑って、私を値踏みするかのように上から下へ目線を移動させる。
すごくきのこを強調してくる語尾来た。
「どんこ婆は、キノコ系の魔物だ!」
見れば分かるし、話を聞いていても分かる。
「どんこ婆! この娘の名前はシズク。我の勇者育成の手伝いをしてくれるというので連れてきた!」
「なるほど、そうだったきのこか。人間の入居者は初きのこ」
こっくりと頷くどんこ婆。
理解がめちゃくちゃ早い。
それに、どんこ婆はカダみたいに怒らなかった。恐らくよくあることなのだろう。
どれだけ連れ込んでるんだ、このタラシ魔王は。まあ、可愛いから仕方ないか。
「空いてる部屋はあったか? シズクは異世界人らしいから文化の違いもあるだろうし、誰かとではなく、一人で住まわせてやりたいのだ。あと、できるだけ我の住んでいる階に近い部屋がいい」
モカ様がそう言うと、どんこ婆は「ひょほっ!」と気の抜ける様な驚きの声を上げた。
「異世界人! そりゃ、とびきり面白い人間を連れ帰ってきのこ! モカ様は先々代様と見た目もよく似てきのこから、そういう所も似るきのこ? ん~、玉座近くで開いてる部屋なら、魔王様のフロアの一階下、22階の2206号室きのこ」
「そうか。シズクよ、お前の部屋は22階の2206号室だそうだ。それでよいな?」
「うん、私はどこでもいいよ」
この部屋じゃなきゃ嫌! なんてことはない。住まわせてくれるだけで御の字だ。
それにしても、このどんこ婆は見た目通りの年齢なのだろうか。モカ様はこんな幼女の姿なのに私より年上みたいだし、この世界の年齢と見た目はあまりイコールではないようだ。
まあ、どんこ婆と呼ばれているのだから、私よりも年下ということはないのだろうが。
「あの、どんこ婆さんは何歳なの?」
「んん? シズクは何歳だと思うきのこ?」
ええ~、女性がよく聞いてくるけどめっちゃ答え辛い質問返ってきちゃった。
この質問はすごく苦手だ。
だって、『自分が満足する
普通に答えろ!! 若く見えようが老いて見えようが、年は変わらないんだからよお!! って襟首を持って揺さぶりたくなる。
私も、年を取ればこういう質問をしたくなるのだろうか。
「え、えと……少なくともモカ様よりは年上に、見える」
「そうきのこ! 魔王様は今年で186歳。きのこは、251歳!」
251歳の前につけたきのこは一人称ですか? 自分のことで合ってる?
「おいおいどんこ婆、レディの年齢をバラすのはルール違反だぞ」
はっはっは、と和やかにモカ様が笑う。
――合法ロリにも程ってものがある。
とんでもない年上だった。どんこ婆は、まあ分からないでもないけれど、モカ様はそんなに年上でこの艶肌と見た目なの? 魔王凄い。
186歳のモカ様でも生まれた時にはお爺様が死んでいたということは……。魔族の……いや、魔王の寿命って本当にどのくらいなのかめちゃくちゃ気になる。
カダの年齢は……、いや、別にいいか。あまり興味が沸かない。
「ひとまず、シズクを部屋に連れて行ってやろう。 転移するがよいな?」
「え、うん」
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