第2話 勇者のレベル

2話目はちょっと長いです。連載開始時は増ページ的なやつです。


◇ ◇ ◇


「我は魔王、モカ・ドルク・マルキダス・ディルモット。お前、名はなんという?」

「――シズク

「そうか、シズクか。いい名だな」


 そう微笑んでくれた笑顔はゴスロリ天使かと思った。ゴスロリ魔王だったのだが。

 ずっと声を出してなかったので少し声がかすれてしまって、ちゃんと相手に届くのか不安だったが、聞こえたようだ。

 言葉も分かるようで安心した。

 どうやらこちらの世界に来た時点で、言語はどうやら勝手に翻訳されているようだった。ふしぎなちからって便利だなあ。

 そして、やはりあの「オッペンニョン」とか言ってた何かは、言葉の伝わらない生き物だったということが、この瞬間に確定した。

 彼女は黒馬から降りて、私に近付く。私は、彼女が外見の割には大人びた風に優雅に歩いてくるのをぼんやりと見ながら、そこから動けずにいた。

 その時私の頭の中では


(も、モカ!? モカちゃん!? もしかしてモカちゃんもこの世界に生まれ変わったの!? なにそれ運命じゃん!! 運命じゃない! 運命じゃなかったらなんなの?! その頭、触らせて!! 撫でさせて!! いいでしょ!! ねぇ!! そのゴスロリ服キャワウィ~ネ! 自分で選んでるの? それとも他の人に選んでもらってるのかな? モカちゃん! モカちゃん! 可愛すぎるよぉお!!)


 ――と、興奮と興奮と、あと興奮と、ほんの少しの疑問が入り混じって爆発しそうだった。


「シズクは苗字ファミリーネームは持っているのか? 見たところ、人間のようだが」

「ナ、名張ナバリ……」


 ちょっと意識が飛んでいたので、詰まった。

 私はポーカーフェイスが得意なので、モカ様にこの時の興奮が気づかれていなかったと信じたい。

 

「ふむ、ナバリ……。聞いたことはないが、世界は広いからなあ。知らぬ名もあるだろう。だがファミリーネームを持っているような人間が、こんな樹の洞の中で一体何をしていた?」


 後で分かったのだが、苗字を持っている人間や魔族は、大体が大きなお屋敷に住む貴族的な存在らしい。

 その時は知らずに普通に答えてしまった。当然、元いた世界じゃ苗字のない人間なんていなかったから。

 それに、別に嘘を吐く必要もないだろうと思ったのだ。


「何を……?」


 その質問に、私はポカンとするしかない。

 今の私にとってその答えは、余りにも形容しがたく難しいものに感じた。

 はて、私はこんな異世界くんだりまで来て、これまで言語が通じそうな生物にも会わず(何かいたけど、多分あれは言葉が通じる類の生物ではないと確定したし)、一人淋しく何をしていたかと問われると……。

 顎に手を当てて、少しばかりこの世界に来てしていたことを思い出す。

 寝床を作って、ご飯を探し歩いて、危なそうな獣や魔物からは距離を取って、服を作って制服を洗って、こっそりとまた洞の中に戻って寝て。時にはぼんやりして……。

 こんな場所に来て(連れてこられて?)、私はこのまま森の中で一生を終えるのか。やっぱり物語は物語で、凡人にはドラマティックな何かは始まらないのだなと思っていた。いや、それでももっと、もっと主人公らしく無鉄砲に、知らない世界をあちらこちらと歩き回れるような度胸があれば、変わっていたのかもしれないけれど。

 おそらく自分が、この状態でこの魔物だらけの森を生きて抜けられる気はしなかったし、この判断は間違えてはいなかったと思う。


「……い、一生懸命、生きてた」


 おそらく向こうの世界では死んだというのに、それもまた変な話だけれど。


「――ッぶふっ!! あっはっはっはっ!!」


 すると、一瞬の間を置いて盛大にモカ様に噴き出された。

 魔王の笑い声が森の中にこだまする!!


「くっ、くくっ、そっ、そうか……。ぷふふ……。なるほどな。樹の洞よりも、我が城の方が幾分寝心地も良かろう。一緒に来るか?」

「えっ!? い、いいの?」


 それは願ってもない申し出だった。

 葉っぱの布団の寝心地は案外悪くないのだが、日本にいた時使っていた低反発布団と比べたら寝心地は天と地ほどの差がある。

 起きたら体中がカチカチに固まって、痛くて辛かった。

 よわい16にして、体が布団に甘やかされていたのだと気付いてしまった。


「ああ、良いぞ――」

「お待ちください魔王様。また得体の知れぬ者を城に連れ込むおつもりですか?」


 モカ様の後ろから、一般的に見て美男子がそう棘のある口調で責めるように言った。

 そう、モカ様が私を見つけた時、彼女にはお目付け役が付いていた。この時は脱出に失敗したのだと後にモカ様は悔しそうに言っていたが。

 背後にいたこの男は、魔王の親衛隊長、カダ。カダ・ムルケット。

 黙っていれば角がある目つきの少し鋭いイケてるメンだが、その喋り方は意地悪な姑の様にねちねちちくちくとした湿っぽいもので、好きではない。私は、竹を割ったようなさっぱりとした性格の男性が好きなのだ。あと、冷たそうなあの眼も好きじゃないし、今どき長髪もどうかと思う。アレは絶対にサラサラのキューティクルヘアに自信を持っているタイプと見た。

 この先、未来永劫この男とラブロマンスなどが始まることはないな、とその瞬間に気付いてしまったほどだ。


「うるさいぞ、カダ。我は魔王。なにをしようとお前が口を出すことではない」


 ピシャリと言い放つが、カダは負けじと言い返す。


「しかし、もう既に城の部屋という部屋に、様々な者たちが溢れているではないですか。その小娘を連れ帰ったところで、詰め込む部屋がありませんよ。野宿をさせるか、人間どもの村に拾って下さいと書いた紙でも持たせて捨て置いてはどうですか」


 この世界に段ボールがあったら、詰め込んで捨てる気満々なその物言いに腹が立った。人間の村には興味があったが、この出会いを運命だと信じきっている私は、捨てられるわけにはいかない。


「どうすればお城に置いてもらえる?」

「……は? 初対面のくせにずうずうしいぞ小娘。特別に人間の村に連れて行ってやると言っているのだから、それで我慢しろ」

「私は、モカ様に訊いてるんだけど。あなたじゃない」


 私の返答にムッとした表情をするカダ。

 眼には眼を、歯には歯を、無礼には無礼を。

 なぜかその時は、『無礼者ー!』とか言われて切られる、なんてことは考え付きもしなかった。ただで切られてやるつもりもなかったが。

 異世界ハイのせいだと思うが、多分これがカダに対しては正解だったので結果オーライ。

 

「ふむ、別によいのだが、そういうことならば……」


 一呼吸置いて、モカ様は私を見上げた。


「――我は今、城の者たちを使って、勇者を育てているのだ。だが、どうにもうまくいかない……。人間の視点から見た助言がほしいのだ」

「!! 魔王様、こんなところにいた得体の知れない人間の、しかも小娘にそのような高度なことができるわけがありません!! 高位種族である我々が、ことごとく失敗しているのですよ!?」

  

 声を張り上げ、カダは私を指差してそう言う。指差すんじゃない。

 うるさいな、こいつカダ

 でも、聞き間違いであるべきだと思うんだけど、魔王が勇者を育てているって言った??? え、もしかして赤ん坊の勇者が、魔王の城にいるってこと?

 だとしたらなんて言葉は使わないか。

 悉く失敗してたら、今頃勇者は死んでいるだろうし。

 モカ様はギャンギャンうるさいカダの声を冷たく遮る。


「うるさいぞ、カダ。何度も言わせるな、黙れ。まず勇者を育てることになった事情から説明しよう。16年ほど前、我の元に配下の魔物からしらせが届いたのだ。東の果てにある小さな村に勇者が生まれた――と。勇者の名前はソラと言うそうだ」

「はあ」


 勇者は私と同い年か。

 ――ん? 

 私は、違和感に気付く。

 何かがおかしい。

 ……こ、この幼女……16年前にはもう既にこの世界に生まれてるってこと?

 幼女に見えて幼女ではない、むしろ自分より年上だと今頃気付いて冷や汗が出た。


「勇者といえば、魔王である我を殺しに来る敵だ」

「そうですよね」

「――? なぜいきなりかしこまる。我が魔王だからといって、そのような堅苦しい言葉を使う必要はない。城の者にもそう厳命している。言うことを聞かぬやつらばかりだがな」

「えっ、は、う、うん……わかった」


 どうやら魔王様は馴れ馴れしいのがお好みらしい。

 だがそれは置いておいて、やっぱりまず根本的に魔王が勇者を育てているというのは、おかしいのでは。

 自分を殺しに来ると分かってるんだから、先手必勝で殺すのが最善だ。

 こんな撫でまわしたくなるようなプリティな見た目でも、モカ様は魔王様なのだから、人間の赤子を殺すくらいわけないだろう。


「勇者誕生の報せを受け、勇者を殺せ、と我が配下の魔族たちはいきり立った。だがそれも一瞬だった。我は――いや、我だけではない、他の魔物たちも……娯楽に飢えていたのだ。だから、手を出すのをやめた」

「んん……?」

 

 ――

 なんで? 血腥ちなまぐさい勇者殺しの物語が幕を開ける流れじゃなかった? 勇者の村が滅ぼされて、運命の導きによって辛くも生き残った勇者が、仇となる魔王を倒す旅に出ちゃう流れじゃなかった?


「赤子の勇者をくびり殺したとて、何が楽しいのだ。我も、そして他の者たちも、生きるか死ぬかという血沸き肉躍る死闘がしたいのだ!! 強者との戦いが、魔族の血をたぎらせる。そして勇者には、我らとそのように戦える可能性が――、いや我らを逆に縊り殺すことができるほど強くなる可能性が、あるかもしれないということだ」

「はあ」


 魔族だから戦闘に飢えている的なやつだろうか。


「それで、育てることにした。我を倒すほどの強大な敵となってもらうために!!」


 少し芝居がかった風に、モカ様は両腕を勢いよく伸ばして、そう溌剌とした声を発した。こころなしか、嬉しそうでもあった。


 ん、お、おお――? 

 なるほど? いや、なるほどかな???

 それって、緩やかな自殺を遂行しているということじゃないだろうか?

 いいのかそれで魔族は?


「そのために、まず魔法の宝玉を四つ用意した。一つは村の上空、一つは勇者の育った家、そして、もう一つは常に勇者の傍に。そして最後の一つは我の玉座のかたわらにおいてある。その宝玉がキャメラと、プロジェクター的な機能を担うのだ。それでずっと勇者を見ていた」


 この世界のストーキング道具怖いな。

 あと、モカ様キャメラって言った? え、カメラのことで合ってるんだよね? 言葉が通じてるんだから、聞き間違いってことないよね。

 なんでそんな業界人みたいな言い方したの?


「ククク、なんでその宝玉は勇者に見つからないの? と思ったであろう?」

 

 モカ様がニヒルに笑う。

 あ、ああ、思ってなかったけど、言われればそうだ。


「魔界で人気の、魔族の子どもが初めて狩猟をする現場をキャメラが捕らえるドキュメンタリー風バラエティ、『はじめてのしゅりょう』という番組を知っているか?」

「そんなモザイクだらけになってそうなバラエティ特番を、私は知らない」


 はじめてのおつかいみたいなものだと予想はつくけど、タイトルから血腥ちなまぐささが匂い過ぎる。

 魔界では放送倫理的なものに引っかからないのだろうか。元々ないのだろうか。


「その人気番組でも、同じ宝玉を使っているのだが」

 

 それって、各ご家庭にもプロジェクター宝玉があるってことだよね? 使われ過ぎじゃない? そんなに大量にある玉は、もう宝玉と名乗るのは烏滸おこがましくない?


「それが、狩猟中の魔族の子どもに見つかったことはないのだ!!」


 ババーン! と効果音を発しそうなドヤ顔で、モカ様がそう私に言った。

 うーん、ドヤ顔もものすご~くキュート!!

 犬のモカが勝手にお座りとお手とおかわりを高速で終わらせて、ご飯を待っている顔にそっくりだ!!


「我らは16年勇者の生まれた村、イハテ村をなにもせず見守った。そして、とうとう三週間ほど前、勇者ソラが村から我を倒すために旅立ったのだ。あ、旅立ちに際しては、もちろん宝玉は三つとも勇者に付いて回るぞ。勇者のいない村には用がないからな。やはり、臨場感たっぷりに勇者の冒険を覗き見る為には、3キャメは必須だろうからな。1キャメ! 2キャメ! 3キャメ! と決め技を繰り出す勇者を、スイッチしながらあらゆるキャク度で見たいではないか?」 

「はあ……」


 キャメキャメうるさいな。あと、最後噛んだ? 角度だよね?

 玉がなぜ見つからないかの説明はさっきので終わりだったのだろうか? 特に深く突っ込むつもりにもなれないけれど。


(なんか見えなくする魔法が掛かってるとかそういうのではないんだ……)


 でも、魔王が村を滅ぼしもせず見守っていたなら、両親や村の知り合いが死んでしまうとかいう、勇者にありがちな哀しい過去も製造されないし逆に良かったかもしれない。とりあえず村は平和なのだろう。


「――だが、村を出て、勇者はいきなり死んでしまったのだ」

「は?」

「おおソラ! しんでしまうとは なにごとだ!」


 臨場感たっぷりに、哀しげな声でモカ様はそう叫んだ。

 えっ、モカ様ドラ〇エ知ってるの?


「その勇者の死因は?」

「ドラゴンキングによる通常攻撃、≪尻尾攻撃テールウィップ≫で、一撃即死だった。ああ、なんたることだ……」


 沈痛な面持ちで、モカ様は思い出して溢れ出てきた涙を拭う。

 が、何かがおかしい。主に、モンスターの名前が。

 

「……あのさ、ちなみにそのドラゴンキングは、名前がすご~くすご~く強そうに聞こえるけど、強さ的にどの位の魔物になるの? そんな凶悪な名前でスライムとかと同程度なの?」


 名前からして嫌な予感しかしない。キングって付いてるし。


「我の側近たち六魔天将の中で一番強い」

「……は?」

「親衛隊長のカダに次ぐ、魔族のナンバー3だな」

「バカ―――!!」

「っ!?」


 もうっ! バカ! モカ様のバカッ!


「村から旅立ったばかりの、ピヨッピヨのひよっこ勇者に、そんな強い敵ぶつけてどうするの!!」


 そんなもん確実に即死だわ!

 もしも――、もしも仮に既に伝説の装備的なものをを最初から持っていたとしても、基礎値は多分1とか2とかなんだから、即死も即死だわ!


「勇者なのに失禁していた……」

「そりゃそうだよ!! 勇者なのにとか言ってやるなよ!」

「布の服だったから、キャメラ越しでも股間が濡れてるのがよく分かったのだ」

「もうやめてあげてよ!!」


 装備が布の服って! ただの服! 初期装備だろ、それ!!

 武器もきっと大したものを付けてないだろうと安易に予測できる。そんな状態で魔族のナンバー3に遭ったら、私だって漏らす自信がある。

 その時の怯えた勇者の顔が目に浮かぶようで、不憫すぎる。

 顔知らないけど。


「それでまあ、ドラゴンキングはすごく反省していた」

「反省って……勇者、死んだんだよね? 反省で済む話じゃないんじゃ……」

「あ、いや死んだといっても仮死みたいな感じ? なんか神? 女神? の守護だか加護だか? みたいなやつがあるらしくて、我を倒すまで魔物の物理攻撃や魔法攻撃では死ねないらしいのだ」


(あやふや!!)


 とかとかが多すぎる!! 未確定情報なの!? そこら辺のことは16年の間にもっとちゃんと調べておくべき大切なポイントだろ!!


「いや~、可哀そうだな(笑)」


 笑うな。


「で、村のすぐそばで全身の骨がバキバキに折れて失禁した状態で見つかったから、村の神父が走ってきて蘇生した」


 そこまでなっても死ねないって、もう一種の呪いだよね。

 見つけた村人も、死んでないことに逆にびっくりしたと思う。


「お金を1000ネルしか持ってなかったのに、蘇生で半分持っていかれてた。神父って本当は人の皮を被った悪魔なのか? 哀しそうな勇者の顔がまぶたの裏にこびり付いて離れないんだが」

「悪魔なのはドラゴンキングだよ!!」

「だって嬉しそうな顔で『では、オレが行こう』とか言われたら止められなくて……」

「そんな強キャラを勇者の生まれた村の近くに配置することがまずいことくらい分かるだろ!! 分かれよ!」


 ツッコミどころが多すぎて疲れる。

 止めないカダも六魔天将とかいう人達も、みんなバカ!! バカダ&六魔天バカ!!

 そもそも死ななきゃお金だって半分持ってかれてない。

 でも、お金1000ネルって価値的にはどのくらいなのだろうか? 剣や盾が買い揃えられる程度なら、いきなり半分持っていかれたら辛いだろうなあ……。布の服のまま隣村まで行かなければならないようだし。

 とりあえず自分の生まれ育った村で装備とか整えないの?


「私、この世界のことに疎いから聞くけど、1000ネルって、剣とか買えるの?」

「はっはっは、おかしな奴だ。よほど箱入り娘だったか? 無理に決まってるだろう。大体学校で校外学習とかに行くときのお菓子購入の制限金額が500ネルらしいし」

「勇者、校外学習+α気分で魔王倒しに行くつもりだったの!?」


 単位がネルになっただけで、円と貨幣価値ほぼ一緒だった!!

 それで旅に出ちゃう勇者も旅に出しちゃう勇者の両親もどうなの!? そこも疑問に思えよ!!

 お菓子を買ったら半分なくなっちゃうような金額で旅に出るなよ!!

 桃太郎の持ってたきびだんごより酷いわ。あれはまだいいよ、だって食べさせた動物がお礼に仲間になるんだし。


「神父もこれじゃあ蘇生し損だわって、舌打ちしてた……」


(神父、本当に人間の皮被った悪魔だった!!)


 色々酷い。

 こんなんじゃ勇者が育つわけがないだろう。


「勇者って、死にかけて生き返ったらパワーアップするとか、そういう便利な機能はないの?」

「ないな~、多分」

「そんな機能があったら、今頃勇者のレベルは最高の99に近いだろう。次の目的地の隣村に到着さえしていないのに」


 カダが口を出してきた。

 いつから冒険に出たのかは知らないが、隣村にさえ着いていない? まだ生まれた村でくすぶってるということ?


「えっ、ちなみに勇者はいつ旅立って何回死んでるの?」

「三週間前位に旅立って、もうかれこれ1050回位だったか?」

 

 カダにくりくりとした紅い瞳を向けて、無邪気に訊ねるモカ様。

 ああ、やっぱりモカ様可愛いなあ。

 いや、待て、三週間で1050回?


「正確には1052回です。先週、勇者死亡1000回記念パーティを開きましたね」

「そんなめでたくないパーティ初めて聞いたよ!」

「100、300、500、1000とパーティを開いてきた。特に死亡1000回記念のパーティは、皆もなかなか感慨深かったようだな」


 うんうん、と二人は満足げに頷いている。


(そんなペースで開いてたらほぼ毎日パーティじゃないの!?)


 あと感慨深かったようだって、なに?

 いや~、勇者ももう1000回も死にましたか、なかなか到達できる回数じゃないですよこれは、めでたいですなあ、みたいななごやかな感じのパーティなの?

 そんなに何度も殺されて、それでも諦めず隣村に向かおうとする勇者も凄い。

 四桁も殺されたら、もう勇者としての責務を放棄しても、誰も文句を言わないと思う。


「死亡1000回記念パーティ後には、そっと勇者の財布に1000ネルを忍ばせておいた。これでまた、旅に出る気力も湧くというものだろうと、我々もほくそ笑んだものだ」


 子どものお小遣い程度を貰ってもあんまり気力は湧かないと思うし、パーティを開くお金があるなら、もうちょっと勇者にあげてもいいと思う。


「勇者はその奇跡に大喜びで旅に出たが、やっぱり村を出てまたすぐにドラゴンキングにやられて死んでしまった。1001回目の死亡だ」

「まだドラゴンキングそこにいたのかよ! 1000回も勇者が死んでるんだから、そろそろ色々気付いて配置転換しろ!!」


 けど大喜びの後の半額はすごく辛いだろうな。上げて落とす、鬼畜の所業だ。いや、魔王の所業か。

 勇者が本当に不憫だ。まあ、顔知らないけど(二回目)。

 しかしあの神父のような悪魔、もとい、悪魔のような神父もよく蘇生してくれるな。


「神父は、最初の方こそ金のない勇者に舌打ちしたり唾を吐いたりしていたが」


 それは神父のやることじゃない。

 そんなささくれた心の持ち主が、なんで神父になったんだよ。やっぱり悪魔のような神父と言うよりは神父のような悪魔で間違っていないようだ。 


「どうやら回数を重ねることにより、祈りの言葉を捧げなくても蘇生できる方法を編み出して、特許を取得。村の教会は別の神父見習いに任せ、各地に教えを広めるという名目で忙しく世界中を飛び回っており、金はがっぽがっぽでウハウハだそうだ。『必要は発明の母とはよく言ったものですね』と彼は述べている」

「勇者より先に神父が村から旅立っちゃったよ……」


 もう神父が勇者になればいいんじゃないの?


「あ、そういえば今の勇者のレベルとかって、魔王様達に分かるの?」

「え~と、たしか3」

「3!!」


 1000回も殺されて、隣町にも辿り着けず、レベル3!!

 それはもう育成を放棄しているのと一緒ではないかと思う。

 モカ様たちのやっていることは、ただのリンチだ。

 本当に、カダが言っていた通り、悉く失敗して、そして思いもよらぬ回数勇者が死んでいた……。



 ――こうして、とても育成下手なとても可愛い魔王様との、勇者の育成を巡る物語が幕を開けたのだった。



―――――――――

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

一生懸命ふざけていきますので、どうかよろしくお願いします。

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