結び目

@sryi718

結び目

 ある一人の少年が暗闇の中でこちらを見ている。顔は色白くやせていて背丈は低い。だが、目つきは鋭く、小さな目からのぞかせる炎は揺らいでいた。ここはどこなのか私には分からない。自分がどうしてここにいるのか見当もつかないが、ただ分かることはやはり彼が私を見ていることだけであった。彼がゆっくり私の方に近づいてきた。そして何かをつぶやくと、背後に隠したナイフで私を刺した。私はなぜ自分が彼に刺されたのか分からなかった。胸をえぐったナイフは彼の目つきのように鋭く強烈な痛みを伴った。身体から溢れる自分の血を見て私は思い出した。あぁ、この少年を私は知っている。彼は私なのだ。意識が遠のいていく。私は彼を引き留めることが出来ない。少年は暗闇の中を走っている。私が最後に見たのは彼の靴紐の結び目がほどけてなびかせるひもだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

結び目 @sryi718

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ