十、

 長い夢を見ていた。私は泣きながら目を開けた。見慣れない天井。


「目が覚めたんですね。良かった」


声が聞こえた。そうだ。私は街で倒れてしまったんだ。ようやく思い出した。


「君、目が覚めて良かったね。近くを通った人が救急車を呼んでくれてね。うちに来て二日程眠っていたんだよ」


病院の先生らしき人が慌てて駆けつけてきてそう言った。


「ご迷惑をおかけしてしまってすみませんでした」

「それがね、どうして君が倒れたのかはっきりした原因がわからないんだよ。これからしばらく検査させてもらうけどいいかな」

「たぶん疲れだと思うんですけど、先生がそうおっしゃるならお願いします」

「一緒に頑張っていこう」


先生と看護師の方が四人部屋の病室から出て行った後で、私は見ていた夢の事を思い出していた。あれは私の人生の中で一番楽しくて、そして一番悲しかった日の夢だった。


私たち家族は、帰り道に交通事故に遭い、私だけ生き残ったのだ。追突事故だった。父が運転していた車に、飲酒運転をしていた年配のおじさんが突っ込んできて、車は炎の海と化した。私は助手席に座って眠っており、追突されても起きなかったらしい。母は後部座席にいたので即死。父は追突のショックで意識を失っていたが、しばらくして目を覚まし、私を抱っこして逃げてくれた。その時ようやく目を覚ました私は、何が起きているのか分からず、道路に座らされた。父は、母が即死しているとは知らずに母を助けに戻った。そして父が母の元に戻った瞬間に車が爆発。私は目の前で両親を失った。私はようやく事態を理解して叫んだ。


「お父さんっ、お母さんっ」


そこからは声にならなかった。それから私は母の姉の家に預けられたが、叔母の家族と打ち解けることができず、声にならなかった時のショックがずっと胸に残り、学校でも友達ができなかった。私は中学を出てすぐに叔母の家を出て、インチキ占い師を始めたのだ。私はよくこの夢を見る。そして毎回起きたら泣いている。父と母に会いたいなんて無理なことを考えていると、看護師から検査の日程表を渡された。


「少し検査が多くなりますが、頑張りましょうね」

「あ、はい。ありがとうございます」


私は手渡された紙を見た。検査項目がいくつも並んでいた。私はそんなにどこか悪いのだろうか。私は淡々と検査をこなしていたが、もう一週間も入院しているのに、全く疲れが取れていなかった。一週間を少し過ぎた頃、検査結果が出たからと言って、診察室に呼ばれた。私は看護師に案内してもらい、診察室へと向かった。ドアをノックして診察室に入る。


「君の疲労の原因が分からないんだ」


先生は言った。

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