第19話巡先輩と本音
「打てる対策は、あとは、データサーバーを破壊するくらいかな。幸い、サーバーは簡単には移動できないからな。学校の情報教室のセキュリティ室の一部が、俺が秘密裡に抱えている〈チト〉のサーバーだ。あれを破壊すれば、この状況は収まるだろ」
「でも」とヨヨが言う。「それを破壊したら〈チト〉の復旧には時間がかかって、来年の廃部に間に合わなくなりますよ。それに、そんなことしたら、清宗さんの三年間の努力が……」
「いや、俺は留年しているから正確には四年の努力だ」先輩が冷静にヨヨの誤りを指摘する。「でもまあ、他に方法っていうと……」
先輩が、私を見る。
それにつられるように、ヨヨと巡さんも私を見た。
私は、あまり空気を読めないほうだけど、さすがに今はすぐにその視線の意味を理解できた。
「私が、〈チト〉のイメージに入って、原因を突き止めて、それを解決すれば……」
「るるか……」
「ああ、もうそれくらいしか……」
「えー、違うんじゃないかなー」
のんびりとした声が先輩の言葉をさえぎった。
私は驚いて声の主を見た。
ヨヨも先輩も同じように驚いている。
「みんなー、ちょっと落ち着いてよー」と、巡さんはいつものように笑顔を浮かべて、おっとりとした口調で言う。
「私たち人知部の目的を見失いかけてるよー。人知部は別に、学校の平和を守る仲良しクラブじゃないんだからさー。〈チト〉と対話するのがー、私たちの目的じゃなかったのー?」
「いや、巡、こんな状況でお前」
「こんな状況だからでしょー。私、思うんだよねー。〈チト〉は、いますごく本音を話している、ってー」
私たちは先輩の言葉を、ゆっくりと聞き、その意味をあらためて再確認した。
そして私は、あの夜にヨヨのアトリエで観た、マンモスチトの言葉を思い出した。
るるか、おいしー
私は巡さんに向き直る。
「巡さんは」何だろう。不思議な気持ちだ。私、なんだか、肉体が勝手に動いているみたい。「私に、〈チト〉の〈イメージ〉に入って、〈チト〉の本音を聞いてこい、って言ってるんですね」言葉よりも先に肉体が先行している気がする。巡さんと話しながら、自然と足が〈サンズ〉に向かっている。
「〈チト〉はきっと、やりたいことが見つかったんじゃないかなー」
「そうですね。私」〈サンズ〉の隣に立った。「なんだか、そう、いい感じです」手を伸ばす。
ヨヨが私に向かって何か言ったけど、その言葉が聞こえる前に、私の意識は〈チト〉の〈イメージ〉に入った。
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