第18話〈チト〉とハッキング
部室にたどり着いた私たちが見たのは、倒れている巡さんと、彼女をかばうように伏せている清宗先輩の姿だった。そして、何事もないかのように平然と立っている、エプロン姿の〈チト〉No.04〈サンズ〉。
「先輩!大丈夫ですか!?」
「清宗さんっ!!」
私たちの言葉が同時に響く。
「大丈夫だ。大したことはない」
そう言って立ち上がった先輩の額には、横に長く引かれた血の跡がある。そこから血が流れて、先輩は片目をつむっている。
「額が切れてちょっと血が流れただけだ。それより、〈チト〉がやばい」
「やばいって、どういうことです?」
「敷地内のあらゆるネットワークに侵入して、ハッキングを仕掛けているんじゃないかと思っている。たぶん、アングラ部の使ってるコンピュータにまず侵入したんじゃないかと思うが……あいつら、自分たちがハッキングされる程度のお粗末さとはな……いや、しかしそもそもどうして〈チト〉の外部ネットワークに接続できたんだ? そんなプログラムは……いや、そうか、あの時もリフトカーが〈チト〉の判断で動いたんだったな。人工知能らしく、そうやって少しずつプログラムにないネットワーク接続を学習していたのか。だが、どうして今日、このタイミングなんだ……?」
ひとりつぶやく先輩の横で、巡さんも立ち上がった。幸いなことに彼女は無傷だ。
部室の窓ガラスは悲惨なことになっている。ほぼすべてのガラスが割れて、外気がびゅうびゅうと室内に入ってくる。床には動きをとめたドローンが数体転がっている。さっき私たちが見ていたドローンは、ぜんぶこの部室に突撃したらしい。
「でも、ドローンはあれだけじゃなくて、学校側が記録用に上空に飛ばしてる機体もあったよね? あれもいつここに飛んでくるかわからないんだけど……ねえ清宗さん、はやく〈チト〉に停止命令を出さないと……」
ヨヨが不安げに言う。
「それなんだけどな。〈チト〉」先輩が言う。「ネットワーク間の通信を遮断しろ」
〈拒否〉
そんな言葉を〈チト〉から聞いたのは初めてで、私は驚いてしまう。
「さっきからこの調子だ。まいったな。緊急停止プログラムも試したが、それすらも〈チト〉に先回りされて効果なしだった。あとはもう、〈チト〉の破壊だが、正直これも現実的じゃないな。〈チト〉シリーズはこの部室だけじゃなく、学校全域に潜ませているからな」
「もー、こういうときにそういうのが裏目にでるんだよねー、部長はー」
こんなときでもおっとりと巡さんが言う。
「あの、先輩、もしかしてこれ、けっこう大変な問題に発展しちゃってませんか?」
私の問いに
「まったくだよ、君の言う通りだるるか君。敷地内のネットワークすべてにハッキングが可能だとしたら、最悪、学校のそばを通過する自動運転車だってこの校舎に向かってくる可能性だってある。負傷者も、最悪死傷者も出るかもしれない」
と先輩が答える。
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