第12話るるかと百円玉

「あー。そういえば、そんなもの作ったっけ」

 聞くところによると、彼女なりの夏休みの宿題の回答だったらしい。夏休みが明けた二学期の初日。教師や生徒が登校すると、校庭に巨大な雪像が屹立していた。もちろん、本物の雪ではなく、それっぽく見せた作りのオブジェだったが。3メートル程の巨大な白いひな鳥とも恐竜の子どもともとれる、デフォルメの利いたかわいらしい動物は、もちろん学校中の話題となった。その頃すでに芸術家として活動している一年生がいるということは学校中の噂になっていたので、すぐにヨヨが犯人として疑われ職員室に呼び出された。あっさりヨヨは自分の作品であることを認めたらしい。宿題の回答としての作品であることを教師に告げると、夏休み前に渡した問題集の冊子や教科書はどうしたのかと教師は訊ねた。

「焼いて灰にしてアレに塗り込めてあります」

 その件でヨヨは二学期早々謹慎二週間。さらに謹慎中に学校に呼び出されても無視したり、私と出会ったあの日のように適当なところで逃亡したこともあって、謹慎期間は追加され、けっきょく未だに謹慎が解けていないらしい。

「文化祭までにそれ解けるの?」

「どうかな。まあ、解けなかったら当日は変装して人知部に顔出すよ」

 私は話をしながら缶ビールを口元に運ぶ。と、缶はすでに空になっていた。

「あの作品の元ネタみたいな作品があるんだよ。ちょっと遊ばせてやるよ」

「遊ぶ?」

 ヨヨは缶ビールをソファの前のテーブルに置くと立ち上がり、ごちゃごちゃした部屋の片隅に近づいて、配線かなにかをいじった後、大きな箱をバンバンと叩いて見せた。

「〈無知に教える〉っていう作品。このなかに入って」

 よく見るとその箱には入り口があって、中に入れるようだ。私は立ち上がって彼女の言う通りに箱の中に入る。

 入って右手側に座席にちょうどいい段差があり、左手側には古くさいディスプレイがすえつけられている。

「昔はこういうのが街のゲーム屋に置いてあったんだよ。写真撮ったり、ゾンビを撃ち殺したり、そういうゲームが流行った時代の遺物だな」

「へー。私あんまりゲームとか知らないから、なんかわくわくするね」

「るるかがそういうこと言っても全然本気で感情動いているように聞こえないなー。ディスプレイの下のところにコインを入れるスリットがあるだろ?」

「うん、あるね」

「そこに百円玉を入れて?」

「え?」

「ん?」

「お金とるの?」

「はは。るるかでも普通のツッコミする時もあるんだなー。冗談だよ冗談」

 そう言ってヨヨは、箱の内側の壁にかかっていた鍵を、コインのスリット近くの鍵穴に差し込んだ。外面が一部はずれて、内部の機械が露出する。それを彼女が操作すると、ディスプレイに映像が表示された。

 レトロな映像で、〈無知に教える〉という作品タイトルが表示される。

「どういうゲームなの、これ?」

「まずは名前を入力だ」


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