第38話・不登校の兄
その日、私は気だるげに起きた。髪はボサボサで……ただ無気力に朝日を浴び。そして……何もせずにいた。
使用人もいない。私が全てやっていたのだが……それも億劫になっている。
「はぁ……情けない。情けないですね」
そう、漏らし……弟がいなくなって一週間。本当に何もしてこなかった。とうとう学校へも行かず。何もかもどうでもよくなる。そう、ヒナトが登校を始めたのだ。
あの、『聖女』と言われる女性の従者として。
「はぁ……」
あれを見たときの勝ち誇った『聖女』の笑みとヒナトの無表情は何とも言えない気分になった。隣で歩いているのが私でないと言うのが胸に深く深く押し込んだ。
「はは……なんでしょうかね」
腕で目を隠し、自問自答する。何とも言えない感情が酷く私を苛む。感じてはいけない、考えてはいけない。それは遥かに紳士的ではなく。汚れているような感じであり、兄としては許せるものではなかった。
そう、私は……弟を失ってから。感情が不安定なのだ。学校へいけないほどに。
トントン
「ん? 誰かしら……屋敷の使用人かしら?」
母上、父上が心配で寄越した使用人かもしれないと思い髪を解かさずにそのままドアを開ける。すると……赤い髪できつめな表情の女性が立っていた。制服姿のその人は私を見るなり驚いた表情をする。
「エルヴィス!? まぁ、あのエルヴィスがこんな姿に」
「バーディス嬢……おはよう」
「おはよう!! 本当に元気無くなったのね!!」
「ええ……この前のがどうも引っ掛かって」
「そうよねぇ~『聖女』と一緒じゃねぇ~」
立ち話も何だかと言うことで部屋に入れ、椅子に私たちは座る。朝食は食べてきたらしく私は用意するのが億劫でそのまま話をする。
「バーディスは学校では?」
「そうよ、あなたと一緒に登校するか一緒にサボりましょう」
「いいんですか?」
「……いいんですよ。私の家も自由が効きますわ」
「……ありがとう。人恋しかったから」
「そうよねぇ~。そうそう、クラインからあなたに面倒をお願い言われてるしね」
「ヒナトから?」
「今はクラインよ。この前にね。あなたの近況を聞いてきたわ。まぁ落ち込みがすごいと言うと変に嬉しがってたので頬をぶってやったわ」
「……」
「あと、セシルとハルトも気になりつつ落ち込んでいたわね。クラインに対してのこの状況を」
「すいません」
二人には申し訳なくなる。せっかく、婚約しようといっていただいたのに全く関わっていないし、今の姿は不衛生で二人には吊り合わない。
「私に謝らないでよ」
「すいません……」
「……はぁ。あの自信満々だったエルヴィスがこんなになるなんてね。本当にクラインのこと好きね」
「……好きとかではないです。家族を失ったんです」
「失ってないでしょ。別に会えるでしょうに……避けてるのはあなたのように見えます」
「……」
ぐうの音も出ない。今は……何故か怖い。
「怖いんです。色々……」
「怖いのは私もよ。あの女は今、令嬢達を色んな方法で取り込んでいるわ。仲間が増えて、大きい学校の勢力になりつつある。色んな令嬢がヘコヘコ頭を下げているわ。神童として」
「神に愛された子……」
「ええ、知識も魔法も立派……私もあの子に頭を下げないといけないのかしらね。なんか目の敵にされて、他の令嬢にも目の敵になってるけどさぁ……聞けばセシルとハルトとも仲良くしたいんだそうですし、私じゃなくエルヴィスなのにねぇ~」
悪役令嬢と言われており、印象が悪い。結局、バーディスは学校に居場所が無くなりつつあるらしい。そんな愚痴を全て私は受け止める。
「何が『聖女』なんでしょうね。強欲女じゃない……セシルにもハルトにも近づいているし、見え見えなのよね」
「ふふ、セシルさんもハルトさんもモテるから」
「まぁ、でも……気をつけてね。エルヴィス」
「はい、バーディスさんもね」
私は少しだけ気が楽になった。色々と話が出来て少し、足にも力が生まれたようだ。
「……そろそろ。おいとまして家に帰るわ。ごはん食べなさいよね」
「はい……食べます。それで……もっと悩もうと思います」
「悩む?」
「……はい。私の胸に黒い感情があるんです。失ったからこそ大きくなって……懺悔したい」
「剣の教会に懺悔室があるわよ。学校で顔出したあとに行ってみるといいわ。私よりも崇高な方が聞いてくださるかもしれません。私には無用ですけどね。ふふふ」
「はい、考えておきます。ありがとう……バーディス」
私はそう言いながら……自分の心に目を向ける元気を取り戻して外行きの服に着替え。彼女と一緒に店を回ったのだった。
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