第31話・エルヴィスの母上懐柔


 私の血を分けた息子が……私のこの世で嫌いな捨てられた令嬢の子と関わっている事がわかった時。旦那に詰め寄り全てを吐かせた。


 聞けば……虐待を受け。死にかけだったのを哀れみで拾ったのこと。過ちで生まれた子に責任を全うしたいと言う。


 色んな話を聞く中で罵声や、怒りを彼に露にした。そんな子を捨てようとした。


 だが……私は何故か多くの人に止められた。そのまま、使用人。旦那にも悪態をついたが。誰一人、まったく傷付かず。胸を張っている。その変な違和感に気付き。その日は屋敷を後にした。


 その日はよかった。だが……違和感はすぐに目の前の状況で理解出来るまで動きがあったのだ。


 次の日から。そう、次の日に自身の支援と経営をしている服屋での店員。お客様から……私を褒める言葉が多く寄せられたのである。その多くが『心の広い、店主様』である。


 私は愛想笑いで『そうですね』と答える事しか出来なかった。そして……どうしてそのような事が起きたかを考えた。


 だがすぐにその答えの質問がありわかったのだ。『弟の男恐怖症克服のために女装する息子さん。かわいくて健気ですね』っと。


 そう……私は多くの方に勘違いをされたのだ。それを気付いた時……仕事を捨て慌ててエルヴィスに会いに行く。どうなっているかを本人聞くまで。






 ノック音と共に幼い男の子の高い声が部屋に響く。


「母上、エルヴィス参りました」


「入りなさい」


 エルヴィスのハキハキした声とドアの空く声がし、そして……綺麗なフリルのドレスで女装した姿の少年が現れる。長い髪はそのためにと言わんとばかりに輝き。睫毛が長く、そして丸い顔は幼さを残す。だが、驚いたのは紅を塗り、化粧もしていたことだった。


 そう、そこには令嬢教育を受けた我が子がいたのだ。一挙手一投足に男らしさは感じられず。産んだ子を間違えたかと私は勘違いをしそうになる。そして……


「かわいいじゃない。その衣装……ふーん。子供服ねぇ」


 仕事柄かその衣装が気になった。売れそうな匂いがする。


「褒めいただきありがとうございます。こんな姿で申し訳ございませんが、これも弟のためです。心の広い母上なら……許していただけますでしょう」


 少女のような口がニヤッと笑い。満面の悪い悪い笑みを浮かべた。私はそれを見ながら……頭を抑える。


「エルヴィス……何をしたか教えてちょうだい……怒らないから」


「はい、母上」


 椅子にちょこんと座り。手を膝におきながら話を始める。私は肘置きに肘を置いて、腕で頬を支える。


「噂と事実と嘘を混ぜて……多くの人に話して欲しいとお願いし、嘘をつきました」


「……」


 私はエルヴィスに何を流したか察する。しかし、答えず我が子の話に耳を傾けた。


「私の弟は虐められて男が怖いです。だから、女装して仲良くなり男への恐怖を無くそうと考えてます。ここが真実ですね。でっ私は嬉しそうにこう答えます。『その行為を許してくださる母上はなんと心の広い人か……母上の元に生まれてよかった』っとね」


「あの忌み子の事も全部話したの?」


「もちろんですよ、母上。全て、虐められた理由も全てを調べ。教えていただき。私の中でそうだと思う事を学び。考えて答えました。母上の恋沙汰は有名です。それを許すのですから……心が広いとなりますね」


「……ええ。お客様に褒められてますわ」


「母上には店と名声に商人の顔がある。あんまり不評はダメでしょう? ライバルからは不評ばかり広められる世界ですしね」


「……エルヴィス。そこまで考えて?」


「そうです。私が笑顔で皆に『お母さんすごいすごい』と言ってるだけで優しい笑みを見せてくれるのです。子供の無邪気な所をほほえましく」


 私は背筋が冷える。そして……その言葉を溢したエルヴィスは照れたように鼻を掻いた。


「母上は絶対に怒る事わかってたんです。だから……多くの仲間、応援してくれる人が必要だったんです」


「エルヴィス。でも……あの子は忌み子よ?」


「認めたくない母上には申し訳ないのですが……私にとっては血の繋がったたった1人の兄弟であり。護るべき弱者です。男に生まれたのです。弟護ってこそ兄であり、騎士様の前でも恥ずかしくない行いと思います」


「……」


 私は……ここまでしっかりと物事や信念を持つ我が子に恐ろしさを感じ怒りが収まっていく。それにもう、噂として私の株が上がってしまった。利用しないと……今度は悪評になってしまう。


「母上……弟を認めてあげてください」


 エルヴィスが真摯に目を向けて私を見る。スカートを強く握りながら微動だにしない我が子に私は……


「……エルヴィス。わかったわ……」


 折れる。


「はは、はははは……やった……やったよ。兄ちゃんやったよ……クライン」


 エルヴィスが肩の力を抜く。ポロポロと泣き出す姿にかわいいと思いつつ私は一つだけ我が子に確認する。


「クラインと言うのね」


「は、はい……我が弟の名前はクラインです」


 涙を拭ったエルヴィスに私は名前の確認後に伝える。一つお願いである。


「クラインと言うあの女がつけた名前は気に入らない。新たな家族の名前をつけましょう」


「母上!? いいんですか!!」


「あの人にも言うわ。新たな子も愛してあげる」


「やった!! お母さんお母さん!! 私がつけていい?」


 エルヴィスが今さっきまでの大人顔負けの雰囲気から、年相応の子のようの甘えてくる。ついついお母さんと言ってしまうほどに嬉しそうに私の膝元まで来るほどだ。


 そんな我が子が喜ぶのだ。昔の遺恨は目を瞑ろうと思う。


「エルヴィス……まぁ大丈夫でしょう。いいわよつけなさい」


「はい!! 失礼しました。お母さんじゃぁね!!」


「エルヴィス待ちなさい!!」


 離れようとするエルヴィスを私は掴み抱き締める。


「その服。誰から買ったの?」


「アントニオさん」


「今度は私の店で作ってあげるから」


「アントニオさんには恩があります」


「アントニオさんに納品します。そこは私が交渉します」


「はい。頑張ってお母さん。いっぱいお小遣いください」


「ほほう……じゃぁお仕事手伝って貰うわね」


「うん!!」


 私は我が子をモデルの少年少女の服も出そうと決心したのだった。

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