第32話 名付け親のお兄さま
「お名前?」
「そう、お名前……名前よ。私がつけてあげる。母上は新たに名前を用意するなら認めてくれる。ごめんね」
「ううん……大丈夫。名前つけてくれるの?」
「もちろん!! 考えて来ました」
僕はニイちゃんに名前をつけて貰えるらしい。彼女は嬉しそうなので……僕自身も嬉しいし、つけてくれると言う事が既に喜べる事だった。そう、母上を思い出す気が起きなくなるほどにニイちゃんの存在は大きいのだ。
「では……ヒナトで!!」
「ヒナト?」
「そう!! 遠い地の騎士。冒険者でありながら最高の騎士の名前です。その冒険譚は胸を踊る物語でした。立派な名だと思います」
「ニイちゃん。それがいい!!」
僕は喜んでその名を受け取る。名前の文字を教えて貰い、どういった冒険者だったのかを知っているのだ。寝る前に読んでくれた。しかし、冒険譚は寝るのを拒み興奮させる。なのに寝ない事を怒られたのをよく覚えていた。
起きたらすぐに起きて読んだほどに……僕も好きである。
「よかった~喜んでくれて」
「うん。でも……この人みたいになれないとおもう……」
「それはわからない。可能性はまだ残ってる」
「ニイちゃん。あのね……聞いてもいい?」
「うん」
「どんな男の人が好きなの?」
「憧れです? ヒナトちゃん、憧れはね。やっぱりこの主人公みたいな人であり。そうですね、教会の剣の宗教騎士様たちに憧れます。盲信的で噂も悪くも、あの騎士様たちは何処か深くなにか別のを見ている気がします」
剣の宗教とは魔族側の神と和解した神の宗教である。世界のためにと言うのが宗教の目的らしい。
「騎士がいいの?」
「もちろん……なりたい。商家を継ぐのはどっちかでしょうが……騎士になれるのもどっちかですよ」
ニイちゃん、僕はまだ騎士になると言ってない……でも。憧れならば。
「わかった。頑張りたい!!」
「ヒナトがそう言うなら!!」
「うん!!」
「明日からスパルタね!! 母上にお願いしましょう」
「うっ!?」
「一緒に頑張ろう!!」
僕は一つ後悔をするなら。これから起こる。壮絶な時間を生んでしまった事だった。
*
「失礼します。お母さん!! お願いがあります!!」
「……こ、こんにちわ」
私は弟を連れて母上の部屋に顔を出した。忙しい母上の部屋は執務室に寝室が隣にあり。父上とは一緒に寝ることはなかった。同じ屋根の下でありながら。ただ仲が良いことは確かである。
「あら……何かしら?」
母上は書面を机に置き私達を見る。私は笑顔で答える。
「私の弟。ヒナトと言います。ほら挨拶」
「ヒナトです……」
少し怯えた弟に母上は……小さな笑みを溢す。
「はい、よろしく。今日からあなたの母です。よろしくね」
皮の面が厚い母上。流石と私は思い、強くヒナトの手を掴んであげる。
「母上!! 弟を立派な騎士にするために先生をお願いしたいのです!! 非常に厳しい方をお願いします!!」
「ニイちゃん?」
「大丈夫。私も一緒だから」
「……ふふ。わかった……期待しなさい」
私の言葉に母上は深い深い笑みを溢す。角が生えたような錯覚を覚え身震いするが……ヒナトの手前。引くことはしない。
「ふふふ、泣いて喚いても……許しませんからね」
「覚悟の上です。ねっヒナト」
「……うん」
次の日から……私たちは母上の教育が始まったのだった。
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