第2話 初コメント





 黒崎加恋視点




 1.名無しの賢者さん


『文章も読み易くていいブログですね。これからも頑張ってください!』



 ブログを開設して数日。

 【ドラゴン・オブ・ファンタジー】にカテゴライズされたブログの順位では388位。

 ほとんど一番下。ブログランキングでは最下位の付近をウロウロしてるけど、初めて送られてきたコメントにむず痒いような喜びを感じた。

 【ゲーマー美少年捜索隊】のグループLEINへと報告のメッセージを書いた。

 『初コメついてたよ』っと、で、送信。


『おお、なんて?』


『読み易いってさ、あと応援してます。みたいな』


『なんというか、こういうのって嬉しいもんだね』


 やっぱり皆も嬉しいらしい。喜びのメッセージがグループ内に並ぶ。

 奏さんと共同でブログ内容を考えたらしい薫は、当然です。と、顔は見えないけど心なしか誇らしげだった。

 ただブログ云々を言い出した私としてはちょっとだけ悔しかった。本当なら今頃は私が奏さんとブログを書いてたかもしれないのに。


『成績戻ったら私も参加して良い?』


『反対です。私とカナデ様の愛の巣なので』


『横暴じゃないかな?』


『そんなことより勉強はしなくていいんですか?』


 釘を刺された。わ、分かってるよ……ちょっと気晴らしにブログの方を覗いただけだ。

 勉強をサボっているわけじゃない。

 ログインを我慢してる時間を無駄にしないためにも、早々にスマホの電源を落とした。

 そろそろ再開するかなー……と、置いておいたシャーペンを手に取る。



 コンッ コンッ



 誰かが部屋の扉をノックした――たぶん妹だろう。

 長年の暮らしでノックのリズムは感覚で覚えている。このノックの仕方は咲だと思う。

 返事をするとカチューシャを着けた咲の頭がぴょこっと顔を出した。


「頑張ってる?」


「頑張ってるけど、何か用?」


 テストの結果はお母さんにも知られることになってしまったので、こうして我が家では誰かと顔を合わせれば毎回勉強のことについて聞かれる。

 もはや私の癒しは奏さんくらいのものだった。

 早くログインするためにも、もっと頑張らないといけない。


「あー……実はね。んと」


 僅かばかりの気まずさを表情に浮かべると、咲は勢いよく頭を下げてきた。


「お願いします! お金を貸して下さい!」


 いきなりだった。答えは勿論NOだろう。

 そういう金銭の貸し借りは良くない。学生のうちから変な癖がついても困るしね。

 そもそもお小遣いは月にいくらかお母さんから支給されているはずだ。

 もうなくなっちゃったんだろうか?


「恋バカの新刊が出るの忘れてたんだよぉぉ~」


「えー……」


 つまりうっかり使い過ぎてしまったということか。

 うーん、だけど即決するというのも、薄情に見える気がするので、体裁だけでも取り繕った。

 しばらく悩んでる振りをすると――


「あの……ちょっとだけなら胸触って良いからさ、駄目?」


「……ごめん、よく分からないんだけど」


「えっ?」


「えっ、じゃないよ。何の勝算があったの?」


 妹の胸なんてジャガイモの皮ほどの価値もない。

 即座に切り捨てる。けど咲は何故か本気で意外そうに驚いていた。


「あー、いや。ごめん。そうだよね。好きでもない人の胸なんて触りたくないよね…………ほっ」


 なんで咲は胸に手を当てて安堵してるのか。

 まあ、今は余計なことを考えてる暇はない。私は勉強しないといけないんだから。

 次のテストでいい点を取ってログインして奏さんに癒してもらうんだ。

 頑張ったら、ちょっとくらいは褒めてくれるかな。

 不純な動機だけど、実はそこも期待してたりする。


「えーでも何しようかな。やることなくて暇なんだよね」


 そう言って咲はごろん……と、床に寝転がった。

 勉学の邪魔になるので用が済んだなら出ていってほしいけど……というかパンツ見えてるよ?


「咲も勉強したら?」


「私テストの成績は上から数えた方が早いんだよ?」


 くっ、なんで姉妹でこんなに差がついてしまったのか。

 私だって元々はそこまで成績は悪くないのに……普段通りに過ごせてたら今頃奏さんと【DOF】でイチャイチャしてたのに……

 低い点数を取ったのだってこの前の抜き打ち英単語テストくらいだ。他のテストでは60~80近辺をウロウロするくらい。

 たまに90点台を取れた時は、お母さんにお小遣いを増額してもらったりもしている。


「なんか咲って要領いいよね」


「お姉ちゃんは頭の栄養を私に搾り取られちゃったんだよね」


 ……出涸らしとでも言いたいのだろうか?

 私の方が生まれたのは早いんだけど。ていうかこの前の単語テストが例外だっただけで、私の成績は別に悪くないし。

 というか駄目だ。集中できない。

 本格的に苦言を呈そうと思っていると、咲がふと思い出したというように言ってきた。


「あ、お姉ちゃんがやってるゲームなんて言うんだっけ?」


「え、【DOF】?」


 本当にいきなりだった。

 唐突な問い掛けに私は少しだけビックリした。 


「そうそう、ドラゴンファンタジーなんとかだっけ。結構有名なタイトルだよね。ずっと続いてるしさ」


 【ドラゴン・オブ・ファンタジー】ね。正式名称間違ってるし。

 興味ありそうだけど、ミーハーな感じがする。

 でもやりたいなら否定することでもないかな? どんなことでもきっかけはあるし。

 これがきっかけで咲もゲーマーになってくれたら嬉しい。

 あ、でも奏さんのことが知られるのは嫌だな。どうしよう。


「よし! 決めた! それやるよ!」


「えー……」


「何で嫌そうなの? いいじゃん」


 まあいいか。なんにしても勉強の邪魔をしないなら、だね。

 それに一言に同じゲームと言ってもそのプレイヤー数は膨大だ。

 そんな都合よく二人が遭遇することになるとは思えない。


「あ、LEINにURL貼ってほしいな~なんて」


「はいはい……」 


 咲が両手を合わせてくる。そのくらいならお安い御用だ。スマホの電源をオンにした。

 あ、でも【DOF】って結構な大容量ゲームだけど、咲のパソコンのスペックは耐えられるだろうか。

 エロ画像で埋め尽されてたりとかだったり。

 私も初プレイ時には、断腸の想いでハードディスクの整理をしたんだっけ。

 今となってはいい思い出だ。


「体験版とかってある?」


「基本無料のネトゲだから体験版は無いかな。垢とキャラ作ってログインしたらチュートリアル始まるから大体分かると思うよ?」


 まあ、私が始めた時はゲーム慣れしてないこともあって全く理解出来てなかったんだけどね。

 それでも咲は先述した通り要領のいい子だ。

 難なく出来るだろう。もし出来なくて飽きて投げ出すことになっても……言い方は悪いけど私には関係のない話だ。

 何かと気紛れな咲の事だし、きっと他の遊びでも見つけるだろう。


「ん、貼ったよ。ついでに攻略WIKIの方も貼っといたから」


「おっけーおっけー。それ見ればいいんだね? ありがと、さっそくやってくるよ!」


 そう言って咲は「よっ」と、軽やかに体を起こして、部屋を飛び出ていった。

 やれやれだ。これでようやく静かに勉強ができそうだ。

 私は机に向かい直すとしばらく放置していた苦手教科の参考書を捲った。




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