第3話 はじめまして
大鳥奏視点
『ラブさん、闘技場行きませんか?』
闘技場というのは所謂PVPが楽しめるコンテンツのことだ。
PVPは(プレイヤーVSプレイヤー)の略称で、ネットゲーム用語で対人戦を意味する。
運営の用意したNPCやモンスターなどとは違い、ちゃんと現実に存在するプレイヤーが操作するキャラクターと争うのだ。
個人戦、集団戦、などがありそこで得たランクポイントは運営によって管理、集計され闘技場のランキングに反映される。
上位ランカーともなるとガチ勢や重課金プレイヤーの様なゲームに全てを捧げた、みたいな人達がひしめき合っている。
ランキングは上位300人までが反映されるんだけど、ちなみに僕もランカーだったりする。
と言ってもほとんど一番下だけどね。だけど、プレイヤー総数が何万を超えるこの【DOF】で上位300に食い込めたのは正直凄いことだと思う。
僕の密かな自慢だったり。
『久々だな。いいぞ』
フレンドチャットで【ラブ】さんから了承を得た僕はさっそく彼女へのPT申請を送った。
少しだけ待つと、PTメンバーの一覧に【ラブ】というキャラクターが追加される。
定型文で挨拶を送った。
『宜しくお願いします』
『おう、よろしくな』
最近は【クロロン】さんが学業に集中するとのことで、それ以外のギルドメンバーとの交流が増えていた。
正直僕個人の感情としては助かっている。
以前【クロロン】さんこと、黒崎加恋さんに告白された日のことを思い出す。
ネットゲームでの繋がりしかなかったから驚きが大きかったんだけど……だからこそ彼女とは距離を置きたかった。
別に加恋さんが嫌いになったとか、一緒にいるのが気まずいとかそういうことではないけどさ。
加恋さんの容姿は非常に可愛らしいものだったこともあり、そんな女の子に告白されたともなれば僕も健全な青少年。意識してしまうのは当然と言えるだろう。
冷静になって考えをまとめる時間が欲しかった。
友達から始めたけど、いずれは答えを出す時が来る。
でも、少なくともそれは今じゃない。大事なことだしちゃんと考えたいと思う。
『カナデと二人で遊ぶのも久しぶりだよな』
『最近ではクロロンさんと組むことが多かったですからね』
『オフ会では――』と、チャットを続けようとしてから失言をするかもしれない可能性に気付き、一旦チャットを消して別の話題にシフトした。
『そろそろですね』
そういえば【ラブ】さんは、加恋さんの告白を知っているんだろうか。
オフ会中の皆の態度から勝手に知ってるって思い込んでたけど。
『見えてきたな』
『ですね』
しばらくキャラクターを歩かせると、だだっ広い森の奥深く。
そこにローマ帝政期に造られた円形闘技場のような形をした建造物がモニターに映る。
やっぱ圧巻だよね。作り込みというかグラフィックというかさ。
『どうする? 個人戦で行くか?』
『2対2の集団戦でどうでしょう? ちょっと試したいスキルがありまして』
『おk、んじゃちょっくらエントリーしてくる』
そう言って受付へと向かう【ラブ】さん。NPCとお決まりのやりとりをしている彼女をしばらくの間眺めていると、不意に視線を感じた。
いや、視線って言うのかなこの場合? ゲームだからちょっと表現が正しくないかもだけど、さっきから同じキャラクターが僕の隣をついてくるんだよね。
気になって軽く【カナデ】を歩かせるけど、やっぱりついてくる。どうやら自意識過剰というわけでもないようなので、周囲に向けた白チャットで話しかけた。
『こんにちは、僕に何か用ですか?』
『a』
一文字だけ打ち込まれる半角のローマ字。
おや? と、しばらく相手の反応を待った。
『はじめまして』
『どもども、はじめまして』
で、またしばらく待つと、比較的スローリーなペースでチャットがやってくる。
『このゲーム初めてで、よかったら一緒に遊びませんか』
初心者さんか、なんか出会ったばかりの頃の【クロロン】さんが浮かんだ。
装備もチュートリアル後に貰える、ビギナーの上下。
武器も木の剣という見るからに始めたばかりの物だった。
『回線混んでるらしくて順番待ちだとよ……って誰だ?』
【ラブ】さんが戻ってきた。
タイミングが良かったのか悪かったのかは分からないけど時間は空いたことになる。
このコンテンツに限らないけど、稀にサーバー回線の混雑具合で上手くマッチングやエントリーが出来ないことがあるんだ。
すると、初心者の女性キャラクターの人は【ラブ】さんにも遅く、しかし丁寧な言葉遣いでチャットを送ってきた。
ふーむ、どうしたもんか。僕一人ならいいんだけど、今回はPTに【ラブ】さんもいるし。
『どうする? アタシはカナデの意見に合わせるぞ』
【ラブ】さんはどうやら僕の意見を尊重してくれるらしい。
んーそうだな。闘技場はやりたかったけど、ここで会ったのも何かの縁。
いつぞやの野良で縮こまっていた【クロロン】さんと、目の前の人を重ねてしまったのもそう判断した理由の一つだったんだろう。
今回はこの人のお誘いに乗らせてもらおうかな。
『いいですよ。僕等で良かったら御一緒に……あ、でもここはあんまり初心者の人が来るような場所じゃないですよ』
『違いないw』と【ラブ】さんが珍しく草マークを生やした。
『wってなんですか?』
ん、ああ。そこからか。
なら【DOF】が――というよりかはネット自体に慣れてないんだろう。
『wって言うのは草マークって言って、笑いの頭を取ってwで表現するんです。笑ってるみたいな意味ですね』
『ありがとうございます』
『いえいえ』
礼儀正しい人だな。チャットにぎこちなさはあるけど、ネットでこういう人とは話してて楽しい。
それが初対面だとしてもだ。中にはネットマナーがなってない人もいるからね。
『行きたい場所とかありますか?』
『行きたい所なんて、始めたばかりなら分かんねーだろ。とりあえず始まりの街でいいんじゃないか?』
『お任せします。宜しくお願いしますね。カナデさん、ラブさん』
こちらこそ、という事で今日は闘技場でPVPではなく、初めての仲間との冒険だ。
僕達が歩きだすと【さっきー】さんは、カクカクと何処かぎこちない歩きで僕等の隣を歩いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます