第1話 ブログ
黒崎加恋視点
[大規模イベント ギルド対抗戦]
・今回のイベントではギルド機能のアップデートに合わせてギルド同士で色んな戦いが楽しめます!
・成績上位のギルド・プレイヤーには報酬が与えられます。仲間同士で協力して豪華アイテムやグッズを手に入れよう!
◇
【ドラゴン・オブ・ファンタジー】の公式イベント情報をチェックする。
いくつかの部門に分かれているらしく、勝てないまでもその内のどれかに参加するだけで高価なポーションが貰えるらしい。
そうしてお知らせをチェックしてからログインすると【グリードメイデン】のギルドメンバーたちが全員揃っていた。
大型イベントを前にギルドチャットが賑わいを見せている。
だけどここまでの勢揃いは珍しい。仲の良いメンバー達との交流とはいえ、皆で時間が重なることはやはり稀だった。
現実での都合もあるしね。せっかくの機会なので、少し前から考えていたことを話してみることに。
チャットが落ち着くのを待ってからまずは定型文での挨拶。その後、さっそく本題へと移った。
『ところで皆はブログとか興味ない?』
『宗教勧誘?』
『違う違う』
【りんりん】に突っ込んだ。
どの部分でそう思ったんだろうか。宗教要素は0だよ。
皆だってオンラインゲームをプレイしているなら馴染み深い単語のはずだ。
『攻略ブログってことですか?』
そして、今のは奏さん。
どうやら伝わってくれたらしい。
正直今でも奏さんと話すのはネトゲ内だろうと恥ずかしい。
告白してからは特にそうだ。凄い意識する。
考えすぎかもしれないけどオフ会後の私と奏さんのチャットは何処かぎこちなかった。
だけど人は慣れる生き物。今では意識しない――とまでは言えないまでも、いつも通りお話ができる程度には落ち着いていた。
『ですね』
で、先ほどの発言に戻る。
攻略ブログとは――
ネットゲームをプレイしてる人達が、そのゲームの時事ネタをブログに綴ったりするのだ。
内容はボス攻略、アイテム情報、アプデ内容の予想、ちょっとした小ネタから、日々の相場の変動など、多岐に渡る。
中にはアフィリエイトブログと言って、ブログ内に広告を貼って収入を得るプロのブロガーも居たりする。
さすがにゲームだけして生活となると難しいけど、ちょっとしたお小遣い稼ぎなら私たちでもできるとは思う。
あ、できる。とは言ってもそれはあくまで可能性の話。それが目的ではない。
今回の提案は金銭目的ではなく、純粋に皆との出来事をブログとして記録に残したいってことだ。
『ブログってなんかプログラミングの知識とか必要だったり?』
『調べたけどそこまで本格的なプログラミングはしないらしいよ。レンタルサーバーってのがあってね。月額で借りれるんだけど――』
一通りの説明をしてみる。
ブログの書き方。っていうサイトに書いてたことをそのままコピペするみたいな感じで皆に伝えた。
私もブログは書いたことないけど、怪しいサイトではなかったと思うし、そこまで間違ってもいないはずだ。
『でもなんでいきなりブログ?』
『前々から興味はあったんだ。皆との思い出が残せるって楽しそうじゃない?』
私は面白そうだと思っている。丁度良く思い出に残せそうなイベントも控えてるわけだし。
皆さえ良かったらプレイ日記みたいな感じでブログを書きたいなって思ったり。
『んー、ブログかぁ』
ギルドメンバーたちが難色を示す。
おっと、旗色が悪そうだ。何人かは乗ってくるかと思ったけど、そんな様子もない。
『気が乗らない感じ?』
『最近ゲームのし過ぎで成績落ちてきたからねー』
『ああ』
学生にとってそれは一大事だ。
残念ではあるけど、そういう事情があるなら諦めるしかないかな。新しいことを始めるのって結構時間とエネルギー使うし。
だけど内心で私は落胆していた。前々から興味のあったブログについては楽しみにしてたんだけどな。
『あ、僕興味あります。詳しく聞いてもいいですか?』
思わぬところからやってきたチャットに「おっ」となった。
ちょっと脳内で想像してみる。
奏さんとのプレイ日記か……
『カナデさん、良かったら一緒に書いてみませんか?』
『お、いいですよ』
やった!
現実でガッツポーズ。拳をグッと握りしめた。
これはあれだよね。共同作業的な? 今となっては都市伝説になった結婚式とかでやる初めての――みたいな?
人間関係の進展にはこういう地道な積み重ねが大事なんだよね。
奏さんとリアルでの繋がりを持ってお友達になれてからいまいちアピール出来てなかったからね。
せっかく好意を知ってもらえたわけだし、ここで一気に距離を縮めれたら嬉しい。
『待ってください。カナデ様、それなら私と共同で書いて頂けませんか?』
そう言って静止のチャットを打って来たのは、薫のメインキャラの【レン】だった。
唐突な待ったに抗議のチャットを送信した。
『なんでレンが?』
『雌豚。ハウス』
『いや、ハウス。じゃなくてさ』
いきなり過ぎる割り込みだ。
いくらなんでもこれは横暴だろう。
薫の暴挙に周りからも声が上がる――
『クロロンはやめた方がいいと思うよ?』
『確かに』
『うん、レンならまだ大丈夫だけどさ』
え、何で味方いないの?
私って知らないところで皆に恨まれでもしてたの?
そんな不安が一瞬頭を過ぎった。
何故に? と、理由を聞いたら【ゆーら】が質問で返してきた。
『じゃあさ~この前の単語テストは何点だった?』
うぐっ、い、痛いところを突かれた。
虚偽の報告をすることも考えたけど、奏さんの前で嘘なんてつけるはずもない。
そういう信用を落とす行為は後々になって首を絞めるだろうし。
『ま、まあ、確かにほんの極僅かに点数の平均値が下降気味であることは否定できない可能性が無きにしも非ずだけどさ』
『で、何点だったの?』
『ここで言う必要ある?』
知られるわけにはいかない。
どれだけ露骨な態度だったとしても、だ。
だけどそんな必死の抵抗も虚しく【りんりん】がさらっと暴露した。
『後ろ通った時にチラッと見えたけど、確か4点』
『草』
『wwww』
『4はやばいww』
大草原だった。全員から笑われる。
屈辱だ。奏さんの目の前でこんなことを……
羞恥心で顔が赤く染まる。せめてもの言い訳をチャットで打ち込んだ。
『いやいや、二十点満点の英単語テストだし、ほら、ね?』
『それでも4はどうかなー……』
確かに最近の学業は疎かになっていた。それは自覚しているけど、こんなところでその事実が足を引っ張るなんて――
こんなことならもっと真面目に授業を受けておくべきだった。
私の普段の復習の時間は【DOF】へのログイン時間によって減っていた。
本来なら中間テストまでに巻き返せる予定だったんだけど、あくまで予定だったらしい。
抜き打ちで行われた習ったばかりの英単語のテストの前に、私は呆気なく居残り確定の点数を取ってしまったのだ。
いや、だけどまだ取り返しは出来ると思うんだよね。と、そんな風に思っていたんだけど――
『そういうことなら仕方ないですね』
か、奏さんまで……!?
奏さんからの一言に絶望を感じた。
や、やばい。これは勉強ムードだ。絶対ログインしてたら冷たい目で見られるやつ!
苦し紛れの言い訳をさらに重ねようとキーボードを叩いた。でも――
『頑張ってくださいね。クロロンさん』
……好きな男性から頑張ってと言われて、それを無碍にできる女がいるだろうか?
『ありがとうございます。頑張ります』
無念と後悔に打ちひしがれた。
そういえばこれはこの前の優良の占いが当たったのだろうか?
当たるなら当たるって言ってほしかった。
フレンドチャットで送ると【ゆーら】からは『理不尽w』と、チャットが返ってきた。
理不尽ではあるけど、まさか本当に的中するとは思ってなかったんだよね。
悔やんでも悔やみきれない。
私はしばらくログイン時間を減らすことを余儀なくされたのだった。
いや、まあ自業自得だけどさ……
『ちなみにだけどレンは何点だったの?』
『あの程度なら満点ですが?』
くぅ……っ!
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