幕間~占い~
黒崎加恋視点
夜の20時。宿題も終わらせてご飯もお風呂も終わらせてからのまったりしたひと時。
今日は皆といつものようにネットゲームだ。
自室にて【DOF】をプレイ中。キーボードを操作してチャットを打ち込む。
そうして錬金ギルドにて、作成したばかりの炎帝装備に錬金効果を付けた。
【錬金が成功しました。炎帝の鎧の体上+2に麻痺ガード+40%が付与されました。】
お、おぉぉ?
思ったより良い効果がついたことで、口からそんな声が漏れ出る。
ペットボトルに僅かに残ったお茶を飲み干すと、この喜びを分かち合うために【グリードメイデン】へのギルドチャットを打ち込んだ。
『炎帝に麻痺Gついたああ!!』
『お、マジ?』
『数値は?』
『+40! 初手に60ついてたからこれで100%!(゚∀゚)』
『(ノ・ω・)ノオオオォォォ-』
『おめでとう!』
『おめでとうございます!』
運が良い。ゲームも恋愛も順調だし、なんだか最近は色々と絶好調な気がする。
ぐぐっと体を伸ばして、筋肉を解した。
時計を見ると20時半。ゲームはまだまだ続きそうだ。
『ちょっと飲物取ってくる~』
気分良くペットボトルを持ち台所へと持っていく。
ラベルを外してフタも分別。中を水道で流してゴミ箱へと捨てた。
◇
『ただ~、ってあれ? カナデさんは?』
『おかえり。今日は早めに寝るんだってさ』
『落ちちゃった』
フレンド一覧を開くと確かにカナデさんの文字が消えていた。
少しばかり寂しいけど、それなら今日はゲームの方に本腰を入れようかな。
最近はあまり【DOF】には、力が入ってなかったから、たまにはね。
そう思い【クロロン】を操作して錬金効果をつけたばかりの装備でフィールドを移動する。
さて、レベリングだー、と思って敵のシンボルにぶつかろうとしたところで【ゆーら】がチャットで言ってきた。
『そういえば』
と、そこで一区切り。
なんだろうと、キャラを止めて一旦岩陰に隠れた。
『占いにハマってるんだけどさ~皆のこと占わせてくれないかな?』
占い? なんか唐突というか、いつの間に手を出したんだろう。
と、思ったけどそういえばオフ会の時にタロットを持って来ていたことを思い出した。
『なんか言ってたね。私はおkだよ』
『アタシもいいぞ』
『構いませんよ』
皆は何やら乗り気だった。
【ゆーら】のチャットに、皆が思い思いの言葉を返していった。
「ならせっかくなので恋愛運を」
「私は……あー、思いつかないからお任せで!」
「アタシも何でもいいぞ」
【グリードメイデン】の皆の会話の輪から外れて集中することにした。
チャットのやってくる音をBGMに操作する。
敵モンスターが麻痺属性の攻撃をしてきたけど、ダメージを食らうだけで状態異常は完全に無効化していた。
安定していた。さすが状態異常系統のガード100%は強い。
そうこうしてるうちにレベルアップ。
それと同時に占いの結果が出たようで【ゆーら】からのチャットが見えた。
『レンは力のタロットだね』
あ、やっぱりタロット占いだったんだ。
チラリとディスプレイ隅のチャット欄に目を向ける。
『力ですか……意味は?』
『強い意志、だってさ』
『なるほど? つまりどういうことでしょう?』
『筋トレじゃない?』
『……何故でしょうか?』
『分かんないけど、夜のプロレスごっこでもするんじゃない?』
『なるほど!』
突っ込みどころ多くない……?
けど素人の占いなんだし、精度はこんなものなのだろうか。
そもそも何を基準にして占ってるんだろう? 実物のタロットを使ってるんだろうか。
何にせよ信憑度は低そうだ。胡散臭い友人の占いを私は真に受けることはなかった。
『私はどうだった?』
次いで【りんりん】が名乗りを上げる。
数日前から同じいつもと変わらない様子だった。オフ会の欠席からは立ち直れたようで一安心だった。
『よく分かんないけどめっちゃ運良いよ』
『よく分かんないの……?』
『運命のタロットが出たんだよね。とりあえず最高です。って』
『でもこの前、オフ会に間に合わなかったけど?』
『そうだね~』
『皆、この占いは当たらないよ( ゚Д゚)』
『www』
だろうね。とか、知ってる。なんて失礼なチャットが並んだ。
皆容赦ないね。そう思いつつ、私も【クロロン】で草マークを生やしておいたけど。
そして、しばらく全員での占いが続く。最後に晶の【ラブ】だった。
『アタシは?』
『ラブは恋人のタロットだったよ』
『wwwww』
『www』
『wwwwww』
ごめん、怒られるだろうけど不覚にも面白かった。
リアルで咽てしまう。小さく咳を繰り返した。
【ラブ】からは不機嫌そうに『てめぇら覚えてろよ』と、チャットがやってくる。
『恋愛的な当たりってことかな?』
『ラブが……?』
『草』
さすがにこれ以上ふざけたら明日が怖いので、私からのチャットは控えておいた。
けれども【ゆーら】が、補足する。
『でも逆位置だったんだよね』
『ほう?』
『意味は?』
『別れ、だってさ』
おっと、意外にも重い意味だった。もっと甘いものを想像していただけに面を食らってしまう。
ちょっぴり空気がモヤッとした。
それを紛らわせるように皆からは『素人の占いだしねー』と、フォローがやってくる。
晶が気にした様子はなかったけど、私の方でもチャットを送り場を濁した。
『どんな分野でも占えたりするの?』
『簡単なのでいいなら、何でも占えるよ~』
『fm……それなら今後の学業についてとか占える?』
ちょっと疎かになりつつあるからね。
抜き打ちテストも低かったし。
『え』
『え』
『え』
すると、全員からよく分からない反応をされた。
『え』って、なに?
そこまで意外なことを言ったつもりはないけど。
『いや~意外だったよ? 絶対カナデとの相性を頼まれると思ってた』
『私も』
『むしろそれ以外の事に何の感情も持ってないと思ってた』
……皆は、私をロボットか何かと勘違いしてないだろうか?
確かに私は最近では奏さんのことばっかりだけど、それ以外の事だって色々考えてるんだよ?
高校での授業は大変だし、人間関係のあれこれだってあるし、委員会での活動も不安がある。
『まあおっけーだよ。やってみるね~』
しばらく待つ。
適当にモンスターを何体か屠った後に結果が返ってきた。
『しばらく後悔するんだってさ。ついでに恋愛運も下がってるよ』
『なぜ!?∑(゚Д゚; )』
『www』
思わずキャラを操作する手が止まった。
え、勉強した方がいいのかな。今レベル上げ凄い調子いいんだけど。
いやまあ考え過ぎってのは分かるんだけど、奏さんが絡むと思わず本気で信じてしまいそうになる。
って、駄目だ駄目だと頭を振った。優良の言葉を間に受け過ぎたら、彼女のペースに呑み込まれてしまう。
私は気を取り直して【クロロン】を操作して、中断していたレベリングを再開した。
こうして今日も下らないチャットで盛り上がりながら、夜は更けていくのだった――
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