幕間~LEIN~
黒崎加恋視点
オフ会が終わった帰宅後の自室にて――
私はスマホ片手にベッドの上でゴロゴロしていた。
くつろいでるというわけじゃない。私は今これ以上にない程悩んでいたのだった。
「なんて送ろう……」
奏さんとリアルなお友達になることに成功した。その結果LEINの交換をしたのだ。
せっかくなので何か送ってみようとLEIN画面を開いて文面を考えていたんだけど……
枕を抱きながら、片手にスマホを持って試しに打ち込んだ。
『こんばんは~! 今何してました~?』
うーん、初のLEINなのにちょっと慣れ慣れしい……かも?
もう少しだけ固めの文章がいいかも?
時間はまだ21時過ぎ。余裕はあるわけだし、せっかくなので色々試してみよう。
その内しっくりくる文章が書けると思う。
『街路樹の葉が青々と生い茂り、目に鮮やかに映ります。行く春を惜しむ間もなく、奏様におかれましては日々ご多忙のことと存じます』
……固すぎるね。いやまあ、打ってる途中で気付いたけどさ……
目上の人に送る仕事の文章みたいになった。
違うんだよね。私としてはもっとこう……親密にやり取りしたいというかさ。気安い感じで行きたいんだよね。
『どもども! こんばんは!』
……これではないかな。
簡潔過ぎても、向こうも何の用件か分からないから返し辛いかもしれない。
「うぅぅー! 分かんないよー!」
ゴロゴロとベッドの上を転げ回った。
しばらく悶々として、そうだ! と妙案を思いつく。
一人で考えようとするから失敗するんだよね。
こんな時こそ皆にアドバイスを求めないと。通知がいくつか貯まってるし【ゲーマー美少年捜索隊】のメンバーたちはまだ起きてるはず。
『皆~起きてる?』
『こんばんは!(*゚ェ゚*)ノ』
『こん! 起きてるよ~』
『どしたの?』
よしよし、何人か居ないメンバーはいるけど、数人は起きてるらしい。
体を起こして、さっそく用件を伝える。
『難しく考えすぎじゃない? カナデさんなら多少のミスは許してくれそうな気もするけど』
『それでも第一印象は大事にしたいの!』
『だけど今までもDMでやり取りしてたんだよね? 似たような感じじゃダメなの?』
『それでもなんか緊張するの……DMではゲームの話題が主だったし』
『分からないでもないけどさσ(-ε-` )ウーン』
そもそも私は奏さんに告白してるわけだし。そう考えると意識とかしまくりなわけで……
普段と同じようにやり取りができる自信がまったくない。
オフ会から時間を置いたことで想いを告げたことに対する羞恥心というか、そういう感情が悶々と胸を締め付けているのだ。
するとメンバーの一人が、でもさ――と、言ってくる。
『こういうのは難しく考えると変な悪循環になると思うよ。気楽にこんばんはって送ったら案外話弾むかも』
『本当に……? もし滑ったらどうしよう?』
『挨拶で滑る……?』
『逆に難しい気がするw』
だけど、改めて言われて冷静になれた気がする。
確かに今までもチャットやらでやり取りはしてたんだし、変な事になるはずもない。と、思う。たぶん。
何も考えずに送ってみようかな……?
ポチポチと文章を作成。
『こんばんは。今日はオフ会お疲れ様でした』
うん、問題はない……二度三度と確認した。
そ、送信!
ぴろりん!
即座に鳴り響く通知音。
えっ、はやっ!?
もしかして奏さんもLEINを送る機会を窺ってた……そ、それは嬉しい!
『やっほー加恋。オフ会お疲れ様』
違った。百合だった。
個人でメッセージを送ってきたらしい。
他のオフ会に来れなかったメンバーに気を遣ったのかな?
でも、今はタイミングが違うんだよね……
『お疲れ様。わざわざありがとね』
そんな始まりで、百合としばらくあれこれ話をする。
さっきのグループでのアドバイスと似たようなことを言われた。
私って変に考えすぎる癖があったのだろうか。こんなに悩むとは思わなかった。
というか既読が付かない……なんか不安になってきた。
もう1通送ったほうがいいのかな。でもしつこい女って思われたら最悪だし。
髪の先を指でくるくるしながら、うーうー唸った。
「どうしよう。いきなりで調子に乗り過ぎたのかな。もしかして気付いててなお無視されてるとか……」
それからおよそ30分。
お風呂上がりという奏さんからLEINメッセージが来るまで、私はベッドの上で悶々とするのだった。
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