第10話 ギルド




 大鳥奏視点



「なんか最近みんなのイン率が高いような……?」


 フレンド一覧を見てぼそっと呟く。

 やたらと金策やレベル上げに誘われるし。

 元々遊ぶ頻度は高かった面々だけど、最近は特に多かった。

 まあ悪いことでもないと思う。

 向こうにも遊びたい時とか、ストレス発散したいときとか、そういう時期だってあるはずだ。

 現実に影響が出ていないなら僕が口を出すことでもない。


『カナデさん(。≧ω≦)ノコンチャ!! 』


『こんばんは!』


 ギルドチャットで挨拶がやってきた。

 軽く挨拶をするとチャットが飛び交い賑わいを見せる。

 ギルドの皆はリアルでも交友関係があるらしく、所謂リアフレというやつなのだそうだ。

 そんな中に僕が参加してもいいのかと思わないでもないけど、リアフレで集まって遊んでるだけでそういう縛りとかルールがあるわけではないらしい。

 楽しそうなやり取りで賑やかなギルチャ欄を見て、しみじみとここに入って良かったなと思ったりする。

 みんな気の良い人ばかりだしね。

 たまに掲示板なんかである程度人間関係が構築されてるギルドは新参の人は置いていかれる、みたいな愚痴を聞いたりする。

 だけどそんな疎外感は全くなかった。

 僕が加入した頃から皆よく話しかけてくれたしアットホームな雰囲気で居心地が良かったのだ。


 一応説明しておこう。

 【DOF】というゲームには【ギルド】というコミュニティを作れるシステムがある。

 ようするに仲の良いメンバーと集まって情報やチャットの共有がしやすくなる……まあ、大規模な非戦闘用PTみたいな感じだね。

 チームとかルームとかそういう呼び方も一部ではしてる人もいたりする。

 僕のメインキャラクターの【カナデ】もギルドに所属している。

 ギルドは何個かシステム上のルールがあるんだけど……まあ、その辺りの細かい説明は今はいいだろう。

 で、僕が所属しているギルドというのが【クロロン】さんに誘われて加入したギルド【グリードメイデン】というわけだ。

 直訳すると【強欲な処女】

 あまりにもあまりなネーミングに思わず笑ってしまったのはいい思い出である。


『カナデさん、この前のやつまたやりません?』


 と、そこで【りんりん】さんが僕に言ってくる。

 しかし、僕には意味が分からない。

 この前の? なんのことだろう。

 

『ほら、なんかやってたじゃないですか、あんあんって』


 ……あんあん?


『なんでしたっけ、ほら、あの凄いやつ』


 要領を得ないチャット欄の言葉に僕は首を傾げる。

 ギルメンの皆も何を言ってるのか分からない【りんりん】さんが気になるのか、いつの間にかさっきまで賑わっていたチャット欄は静まり返っていた。 

 なんだろう、妙な緊迫した空気を感じる。

 よく分からないのでプレイしながら考えることに。

 ゲーム内通貨のゴールドを引き出してバザーを見る。

 目ぼしい安売りアイテムなどはないようなので、バザーから離れた。

 そうしている間にも【りんりん】さんは喋っていた。


『やー、カナデさんやばかったですね。私またやりたいですねー、ほら、あんあんって』


『下手か!』


 なぜか【クロロン】さんが突っ込んだ。


『ごめんなさい』


 意味が分からなかったので素直に謝る。

 続けてチャットを打ち込んだ。


『あんあんってなんですか?』


 あ、顔文字つけるの忘れてた。

 短い文面の疑問文って場合によってはちょっと冷たく見えないこともない気がするけど僕だけなんだろうか?

 ちょっとそっけない感じになっちゃったかも。


 ………


 ………………


 ……………………………


 やけに不自然な沈黙が続いたあとで、ようやくチャット欄の時間が動き出した。

 なぜか【クロロン】さんが答える。


『りんりんが言ってるのはチャットHのことだと思います。カナデさん上手かったのでまた聞きたいんじゃないかと』


 ああ、なるほど。

 僕が内心納得していると再び【りんりん】さんが発言。


『いや、なんというか、好奇心というか、純粋な興味といいますかwww所謂知識欲ですよねwww』


『んで、ちょっと詳しく調べたらやっぱり経験するのが一番だって言うじゃないですかwwwww』


『友達も言ってたんですよwwwカナデさんに頼んだらどうかってwww』


『どうですかね!?(「゚Д゚)「』


 やたらと早口で喋られた気がする。

 こんなに草生やす人だったっけ……なんかキャラ違ってないだろうか?

 けど……んーチャットHか。

 改めて思い返すと結構恥ずかしいんだよね。

 あの時は、貞操観念逆転してるし大丈夫だろうという謎の根拠に突き動かされてた気がする。

 でも僕個人としては楽しめた思い出なのでやってもいいと思う。

 きっと【りんりん】さんもそう思ってくれてたってことなんだろうし。


『じゃあ個チャで話しますか』


 ギルドチャットで皆に聞かせるようなことでもないしね。

 こういう下ネタが苦手な人もいるだろう。

 しかし、再び不自然な間が空く。

 誰も何も喋らない。

 【りんりん】さんも肯定どころか否定もしないし、他の【グリードメイデン】のメンバーも一言も喋らない。


『どういうシチュがいいです?』


『選ばせsってもらえるんでsか?』


 選ばせてもらえるのか? ってことかな。

 僕としても喜んでもらえた方が嬉しいからね。

 『いいですよ~』と、チャットを打ち込む。


『分かりました。それでは個人チャットのほうで、二人っきりで話しましょう(・∀・)』


 個人チャットとはその名の通り個人とするチャットだ。

 フレンドが対象になるため別名フレンドチャットなんて言ったりもする。

 ほかのプレイヤーには見えないし、秘密の話って感じで僕もちょっとドキドキするんだよね。

 するとギルドチャットが一気に賑わいを見せた。


『裏切者』


『てめえ、明日覚えてろよ』


『りんりんは呪われた』


『りんりん足臭い』


『気になってたんだけどりんりんってちょっと臭いよね』


『りんりんの臭いってなに? 加齢臭?』


 なぜか急に罵声を浴びせられる【りんりん】さん。

 ど、どうしたんだろうか。

 

『女子高生を縛ってひーひー言わせる鬼畜美少年みたいなのってできますか?』


 しかし、【りんりん】さんは気にもしていなかった。

 勝ち誇ってる気配すら感じられる……いや、なんとなくだけどさ。

 個人チャットからやってきた要望を少しだけ脳内で考える。


『できますよ、得意分野です』


『っそおおおい!! (゚∀゚)キタコレ!!』


 その日は、遅くまで【りんりん】さんとのチャットを楽しんだ。





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