第7話 はじめてのクラス

 2年E組。

 普通科のEクラスが俺のクラスだった。

 30人ほどのクラスメイトの顔を緊張して見回した。違和感しかなかった。

「なあ、ホスト。このクラス……男しかいないぞ」

「さっすが、時雨ちゃん。そこに気がつくとは。見てみ? どいつもこいつも学校から見た問題児だらけ。スポーツ科とか芸能科みたいな専門科から何人も来てるワケじゃん」

「面構えが違う。なあ、つまりこれ」

「ピンポーン。問題児クラス。出席率とか内申で分けられてるっぽい」

「なら、セブンもいるよな。なんで雷堂いないんだよ」

「セブンはいるよ。雷堂はほら、人気アイドルたから、芸能科のエースじゃんよ」

 高校1年3学期の出席を拒否した俺がこのクラスにいるのは当然だった。補習の参加とか無ければいいけれど。

「俺の席どこ?」

「ほら、窓際。セブンが寝てる席」

「なんでセブンが俺の席で寝てるんだよ」

「時雨ちゃんが来たらわかるように、朝だけその席に座るって昨日言ってた。時雨ちゃん来るまでパチもスロもやめるって。パチ屋で整理券とって、台の抽選してガッコ来なかったら時雨を怒れないからつって。相変わらずっしょ」

「ったく、なにも言えねー」

 俺の席で寝ている大柄な男の肩を思い切り叩いて、いった。

「化け物の、始まりのときフリーズの確率は?」

「うおああーーっ。エッ、えっ? 16000分の1。AT確定ーッ」

「よっ、セブン。おはよう」

「シグレェーー、おかえり。ずっと待ってたんだぜ」

 180cmあるでかい体が抱きついてくる。

 セブンっていかにもあだ名っぽい名前。これが本名。七条 七。苗字がななじょう、名前がせぶん。七ばっかりつく縁起の良い名前だ。

「オイオイ、顔どしたんよ?いつもより更にひでーぜ」

「さっき雷堂にぶん殴られた」

「虎に噛まれてその程度かよ。ラッキー」

「みんなそれ言うな」

「雷堂、裏で番長って言われてるから。特攻服が一番似合う女」

「ははっ。見たい。特攻服の雷堂みたいわ。胸にサラシ巻いてそう」

「あいつ最近おっかねえよ。何人か殺してる目してるぜ」

「大丈夫、大丈夫。あいつは大丈夫」

 そんな話から、おしゃべりを続けていたときだった。チャイムが鳴る。それと同時に、教室の前の入り口から2人の教師が入ってくる。

「……2人?」

「シッ。すぐわかる」

 ひそめた声で後ろの席に座るセブンが言った。セブンのとなりに座るホストも顔を横に振っている。

 教卓に立ったのは男の教師、その横に見慣れない女教師がいる。

 厳しすぎる生活指導を行っているため軍曹とよばれる教師は、教卓でクラスを見回した。どうやらクラスの担任らしい。もうひとりは?

 軍曹が低い声で言った。

「おはよう」

「「「おはようございます、先生」」」

 統一された意思をもって、ほかのクラスメイトが大きな声であいさつを返した。ホストとセブンと俺が置き去りにされたようだった。

「くそったれ共、お前らに勉強など早すぎた。健全な精神は健全な肉体に宿る。不健全なカス共は着替えて玄関に集まれ」

「「「はい、先生」」」

 そういうとクラスメイトは立ち上がる。立ち上がり、左足から歩き始め歩幅を揃えて教室を出て行った。

 教室には5人が残された。

 担任の軍曹が俺と向かい合った。

「クラス担任の東条だ」

 立ち上がり拳を握り体の横につけて、10度ほど腰を曲げた。

「天宮 時雨です。よろしくお願いします」

「このクラスの担任は2人いる。おれと九鬼先生が交代あるいは少人数を対象に別々に字授業をする。しばらくは環境順応を行うつもりだ。今日は近くの女子高付近まで走る。来るか?」

「女子高へ順応の仕方を学びに行くのなら、ぜひ」

「時雨ちゃーん、ちょいと考えてみ。近くの女子高ってお嬢様学校のエリスじゃん?」

 エリス女学園? あそこってたしか。

「往復で半日走り続けるじゃん。だまされた」

 軍曹は大きな笑い声をあげてから、俺の肩に手を当てて教室を出た。やはり左足から歩き始めていた。

「笑ってはいけないドッキリじゃないよな」

「気持ちはわかる。けど、ガチだぜ」

「このクラス何人?」

「30ジャスト」

「27人か。軍曹についていってるけど、なにがあったんだ」

「ガチンコ対決だぜ?」

「もしおれの指導に文句があるやつはかかってこい。おれに1発でも有効打が入れば1年間、おまえら全員の言うことをなんでも聞いてやる。おれにも九鬼先生にもなんでも命令していい。って俺らをガッコの道場に連れて、軍曹が言い放ったんよ」

九鬼先生とよばれる女性の教師を見る。

「……なぜ俺は昨日、登校しなかったんだ」

 スーツを着こなす凛とした、綺麗な大人の女性だった。

「わかるわかる、時雨ちゃん。あやうく挑みかけるよな。あの熱狂する異様な雰囲気のなかで、セブンだけがストップって言ってくれたんだ。言ってくんなかったら正直やばかったっしょ」

「ちっとも当たる気配がしなかった。月末とか月初めのパチ屋の熱狂に近い匂いがしたぜ」

「おかげでオレとセブン以外はひどい負け方して従順になっちゃったんだよね。まあ、どっちのセンコー向きか振り分けられたっぽいけど」

「ふーん。なるほど。で、俺らは九鬼先生ってこと? よろしくお願いします」

 良い生地のパンツスーツをビシッと着こなした担任にあいさつした。

 セミロングの長さの髪。前髪は長く横に流しているため、表情は明るくみえる。けれど、知性を感じさせる目が明るさとは逆だ。インテリの堅物といった感じの大人の女性だった。

「九鬼だ。お前ら、教師に嫌われるタイプの生徒だろ。エロガキのサボり魔、チャラチャラしてナメた男、学校で寝るギャンブラー」

 俺、ホスト、セブンの順番にそう言われる。

 ピリッとした空気がながれた。

「最初に言っておく。申し訳ないが私は教師じゃない。だから、お前たちみたいなクソガキは嫌いじゃない。よろしく頼むよ」

 意外にもこの女教師は、人懐っこい笑顔をしながらそう言った。

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