第四話 村での生活 前編

 腹部と左肩に大怪我を負った俺は、借金返済を諦め、六週間後に迫った死を受け入れる事にした。


 だから、俺が死ぬまでの六週間は、この村で幸せに暮らそうと思う。


 村長も、その娘のクレアも、とてもやさしいから、この村での生活はとても快適だ。


「なあクレア、この村はいい場所だな」

「ええ。戦士様が守ってくれたおかげです」


 俺が守った、か。

 俺はこの村を襲っただけなのにな。


 クレアや村の皆は、心から俺を信頼してくれている。

 それはとても嬉しい事だ。


 嬉しい事のはずなのに、胸が苦しい。


 でも、我慢するんだ。


 今の幸せを失いたくはないだろ?



***



 俺の寿命 残り 四 週間


 怪我もだいぶ回復し、まだ左腕は動かすと少し痛むが、支えがなくても歩けるようにはなった。




「今日の晩飯は何だ?」

「焼肉です! 今日は村のお祭りですよ!」

「祭り?」


 そういえば今日は、朝から外が騒がしい。

 外が騒がしかったのは、祭りの準備をしていたからか。


 これで納得……じゃない!


 今日は何の日だ?

 全くもって心当たりが無い。


 聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥と誰かが言っていたし、クレアに聞こう。


「今日は何の祭りだ?」

「秘密です」


 クレアが、イタズラを企む子供のようににっこりと笑った。


 教えてくれたっていいじゃないか!

 けち!


「ぜひ来てくださいね」


 何の祭りかは気になるが、怪しげな邪教の儀式とかではないだろう。

 クレアも、よそ者の俺を祭りに誘ってくれているし、祭りに出席したい。


「おう! 誘ってくれてありがとな。でも、歩くのはまだ辛いし、車いすでの参加でいいか?」

「ハイ!」


 幼子のようにはしゃぐクレアの頭を、そっと撫でてあげてみた。


 彼女の髪はシルクのような肌触りだった。




 日が沈み、夜になった。


 村人たちは皆、普段なら寝静まる時間だというのに、広場に集まり、祭りを楽しんでいる。

 若い男が楽器を奏で、可愛い少女たちがそれに合わせて踊りを披露し、大人たちは踊りを見ながら仲間と酒を飲み交わす。


 酒が飲めない俺は、広場の隅で数種類の果汁を混ぜたジュースを飲んでいる。


 このジュースを持ってきてくれたクレアは、露出度が少し高い服を着て、他の女の子と一緒に踊っている。


 そんな彼女たちの様子が微笑ましい。


 コップの中のジュースが無くなったとき、不意に音楽がやみ、少女たちは踊りをやめた。

 踊りが完全に終わった今でも、集まった村人たちは焚火に注目している。


 そんな中、村長さんが皆の注目が集まっている焚火のそばにやって来た。


「皆の者! よく聞くのじゃ! 皆も知っている通り、先日この村は憎き盗賊団に占拠された!」


 ん?

 本当にこれは何の祭りだ?


「じゃが、村を救いに来てくださった戦士様が、村を救ってくれたのじゃ!」


 んんんん?


「今宵わしは、戦士様を称える宴をひらく!」


 周りの人から歓声があがる。


 また一つ、俺の秘密を知られてはならない理由が出来てしまったようだ。

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