第八話 戦闘開始

 どこかから、悲鳴が聞こえ、錆びた鉄のような匂いが風に乗って流れてきた。

 また誰かがやられたらしい。


 俺はいつ魔獣に出会っても構わないよう、大剣を抜く。


 いきなり視界が開けた。


 辺りは元々は家の一部だったのであろう瓦礫に埋めつつされ、あちこちに、赤い水たまりがある。


 その中心に、巨大な銀色の何かがいる。


 ここで何が起こったのかは、容易に想像できた。


 銀色の魔獣がこちらを向いた。


 魔獣の第一印象は『銀色の熊』だ。

 だが決して、これは熊なんかではない。


 人間の大人の三倍以上の背丈、人の胴ほどの手にはサーベルの如き爪が生え、血のように赤い顔面に浮かぶ狂気に満ちた眼が、こちらを見つめている。


 こいつが、この惨劇を引き起こした犯人だ。


炎の矢ファイアー・アロー!」


 好きだった村人たちを殺された悲しみを、悔しさを、怒りを、吐き捨てるように魔法の炎を放った。


 炎は魔獣の顔面に直撃して弾け、消えた。


 効いていない!?

 なら!


「うおおおおお!」


 爪を使った攻撃を、しゃがんで躱し、懐に潜り込み、脚に向かって放つ横薙ぎの一閃!


 が、


 キン!

 と、乾いたと共に剣が弾かれた。


 皮一枚どころか、体毛一本も斬れなかった。

 この魔獣の体毛は恐ろしく硬い。


 俺は一度後ろに飛び、距離をとった。


 さあ、ここからどうする?


 過去に、防刃素材は刺突に弱いと聞いたことがある。

 この情報が真実なのかは知らないが、試してみる価値はある。


 再び俺は魔獣の攻撃を躱しながら懐に飛び込み、突きを放った!


 剣が魔獣の胸を貫いた!

 魔獣が宇宙そらが崩れ落ちたかの様な悲鳴をあげる。


 やったか!


 そう思い、油断してしまった。


「がっ!?」


 突如、右肩にこの世のものとは思えないぐらい、重い衝撃が走る。

 俺は大きく吹っ飛び、数回バウンドして、倒れた。


 体中が目茶苦茶痛い。正気を保つので精一杯だ。


 俺は、袋の中の薬草を選びもせずに全部取り出し、喉の奥に詰め込んだ。

 そのおかげで、少しずつではあるが、痛みが引いて来た。


 しかし右腕の感覚は戻らない。

 今右腕がどのような状態なのか気になったが、見ない方がいい気がしたので、見ない事にした。


 さあ、どうする?

 俺はどうすればいいんだ?


 利き手は使えないし、武器も細身のロングソードしかない。

 正直、左手で振るうロングソードで、こいつと戦える自信はない。


 なら逃げたほうがいいのか?


 否。


 もしここで逃げ切れたとしても、俺は呪いの首輪これの所為でもうすぐ死ぬし……


 俺は何気なく首に手を伸ばし、首に呪いの首輪が付いていないことに気付いた。

 さっきの魔獣の攻撃て取れたらしい。


 これで、借金を返済しなくても、生き延びる事が出来る。


 だが、今ここで俺が逃げた事で、魔獣がクレアたちを殺してしまう事は無いのだろうか?


 もしそうなれば、俺は猛烈に後悔することになるだろう。


 なら! 

 刺し違えてでも、魔獣を倒す!


「炎の矢! 炎の矢! 炎の矢!…………………………!」


 俺は馬鹿の一つ覚えのように魔法を連発した。


 魔力の使い過ぎで、少しずつ意識が薄れてゆく。

 だが、構うものか!


「うおおおおお!」


 俺は魔獣に急接近し、胸に刺さっている大剣を引き抜き、投げ捨てる。


 そして、剣が刺さっていた場所に左手を突っ込み、


「ファイアー……アロオオォオオ!」

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