第七話 戦場へ

「被害は!?」

「もうすでに九人もの村人が殺されてしまいました」


 もう、九人もやられてしまったのか。


 ぐずぐずしている暇なんてない。

 早く逃げないと!


「村長! 俺が魔獣を足止めする。その間に皆を連れて、近くの町に避難しろ!」


「は、はい!」


 俺は村長の返事も聞かずに、屋敷を飛び出した。




「待って下さい!」


 後ろから、クレアの悲鳴にも似た叫び声が聞こえた。

 なんだよ。こんな時に。


 俺はクレアの方を見た。

 クレアは、慌てて屋敷を飛び出してきたせいか、息切れが激しい。


 何早速息切れしてんだよ!

 そんなので逃げれるのか?


「戦士様も私たちと一緒に逃げて!」

「それはできない」

「なぜですか!?」


 俺は、この村に来てからの事を振り返り、穏やかな笑みを浮かべた。


「クレアや、村長さん、この村の皆は、こんな俺なんかに温かく接してくれた。とても、嬉しかった。この村での日々の思い出は、俺にとって何よりの宝だ。

 この思い出が、村を守る代価だ」


「何を……何を言っているのですか!?」


 俺もサッパリわからん。

 だが、確実に言えることがある。


 借金の返済期限はあと一週間もない。

 もしここで逃げたとしても、借金を返済できないから死ぬ。

 どうね死ぬなら、この命を、この村のために使いたい。


 この事だけは、はっきりしている。


「俺は村を護衛する代価として、思い出という宝をもらった。報酬をもらったのに、仕事をしないのはおかしいだろ?」


「なら、依頼内容を変更します! 村を守るのではなく、逃げてください! これが依頼です」


「はは。なら、俺は依頼内容を無視するのだから、違約金を払わないとな」


 どうせ死ぬんだ。死人に金など必要ない。

 だから、俺は有り金全てを革袋に詰めて、クレアに投げつけた。


「その金は、この村を復興させるのに使ってくれ」

「どうして戦士様は、そこまでして私たちを守ろうとしてくれるのですか?」


「守ろうと何てしていない。俺は野盗だ」

「え?」

「盗賊団からこの村を救うためにここに来たのではなく、この村を襲うためにここに来た。この村は俺の獲物だ」


「そんな……」


「俺の獲物が、魔獣なんかに奪われそうになっている。獲物を横取りされないよう、行ってくるよ」


「バカ! 戦士様なんか……魔獣に喰われて死んじゃってください!」


 ああ。

 完全に嫌われてしまったな。


 だが、これでいい。


 これで、クレアの悲しみを和らげることが出来た。




 俺は、人の流れに逆らって――――魔獣に向かって走り出した。

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