寵妃の剣技


 ナイチンゲール看護婦人会はごった返していた。

 そんなところへ金髪碧眼、超がつくほどの美人が四人、同行するといわれて責任者は困惑した。

 女官で構成されているゆえに、この四人が、どのような立場の人間かは、理解していたからだ。


「皆さま、私たちが行く先は戦場です、そこの後方といえど、野戦病院を開くのです、どういう事は判りますか?」

「手や足がちぎれた兵士が運ばれて、中には安楽死を与えなければならない方もおられます」


「血だらけになりますよ、それに私たちは、皆さまに対して何もしてあげられませんよ」

「食事なども自分で作ることになります、出来ればおやめになられた方が」


「邪魔な事は判っています、でも、何とかヴィーナス様のお役に立ちたいのです」

「だから私たちは勝手に皆さまについて行きます、そして勝手にお手伝いさせていただきます」

「もし私たちがついていけなくなったら、おいて行って下さい」


 困っていた婦長の所へ、ナイチンゲール看護婦人会副総長のオルガがやってきた。

 オルガ自身も、内緒で従軍するつもりでやってきたようだ。


 話しを聞いたオルガは、

「では私と一緒に行動しますか?」

 と、四人に云った。


「貴女は?」

「オルガといいます、ナイチンゲール看護婦人会副総長を拝命している者です」

「お願いできますか?」

 というわけで、オルガを含めて五人は、ナイチンゲール看護婦人会の後をついて行く。


 さすがは武人の国といわれるフィンの女、四人とも馬に乗れる、そしてオルガは馬に乗れない……

 結局、四人の馬は大活躍、後ろからナイチンゲール看護婦人会の、膨大な荷物を運ぶ手伝いをしている。


 オルガが四人に、

「いよいよ予定戦場につきました、婦人会はこの地に野戦病院を設営いたします」

「もしよろしければ手伝ってくれますか?」

「その為についてきたのです」


 決戦は一日で終わったが、野戦病院には傷ついた兵士が山のように運ばれてきた。

 医療魔法士がどんどん治療するが、完治するまで手をかけるわけにはいかない。


 とにかく命を取りとめ、なんとか目途の付いた方はベッドに寝かされているだけ。

 血まみれの身体を拭くこともままならない。


 そんな中で、四人は兵士の身体を拭き、食事やトイレの世話をし、必死に下女のように働いていた……

 しかし、その様な野戦病院に敗残兵が襲ってきた。


 ここにいるのは女官と負傷兵ばかり、しかもヴィーナスの魔力の加護は少しばかり……

 オルガがとっさに、軽傷の兵を組織して防御態勢をしいたが、援軍が来るまで持ちそうにない。


 その時、ヴィーナスの本営では、それどころではない出来事が起こっていた。

 戦いでヴィーナスが腕を切断されて、皆、野戦病院の事など忘れてしまっていた。


 コルネリアが、剣を持って出て行った。

 細剣(レイピア)を手に持って、敗残兵と切り結び始めたのだ。

「わが名はコルネリア、ヴィーナス様のモルダウの寵妃が一人、ここは通さん!」

 つづいて、シャルロッテもクララもフレデリカも、戦い始めた。


 その時、チョーカーの魔力が各々の主人を守りはじめる。

 それは各々の心の強さに従っているように……一人として野戦病院に近づけさせない。


 細剣(レイピア)を振うと、空気が刃のようにあたりを突き、無残な死体が転がっていく。

 敵の刃は直前で動かなくなり、その間に敵兵の腹に穴が開く……


 もともと武人の国フィンのハイドリッヒの側室だった四人、剣の扱いは知っている。

 それが幸いしているようで、魔力が潜在的なその知識を拡大解釈して、自動で敵兵に対処しているようだ。


 とくにコルネリアは、父から叩き込まれた剣技が本能のようになっていて、だれが見ても素晴らしいと思える剣技を発揮していた。

 血煙が立ち籠り始め、ついに敵はまとまりをなくして、散り散りになって逃げ出した。


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