葬儀の女主人の涙


 コルネリアたちは、半狂乱になりそうだったが、何とか気持ちを抑え込んで、葬儀に出席した。

 そこで、コルネリアたちは衝撃を受けた……


 ハイドリッヒの名誉のために、コルネリアたち側室は、黒の巫女に王妃の位置に立ってもらったのだが、こっそりと覗き見た黒の巫女が、ハイドリッヒの為にひっそりと涙していたのだ。


 さらにその夜、コルネリアたち四人は聞いていたのだ。

 月明かりのバルコニーで、黒の巫女は嗚咽していた。

 そこへ同道していた、元アムリア帝国大公の妾であったマーシャにいったのだ。


 「私も女ですね、本当は死んだ兵士の為に流さなければならない涙を、一人の男の為に流してしまって……」

 と……

 そしてさらに涙をこぼしていた。


 その時、コルネリアには、黒の巫女の脇腹あたりに、血が滲んでいたのが見えた……

 ヴィーナス様は激痛を押して、葬儀に出席されていた。


 次の日、コルネリアたち四人の側室は、話しあっていた。

「私は殉死したい、このまま生きていたら、ウィルヘルム様に御迷惑がかかる」

「必ず、私達の親戚がのさばるのはたしか、亡きハイドリッヒ王は、ウィルヘルム様の事、モルダウ王国の事を、あの黒の巫女様に、託されたと聞いた」


「あの方なら。モルダウの事は大丈夫と思う、しかし私達がのうのうと生きていれば、大丈夫な物も大丈夫でなくなる」

「私は黒の巫女様が、ロンディウムを去られたら、命を断つつもりだ」

 リーダー格のシャルロッテがこう切り出した、それに他の三人も同意した。


 しかし運命は死を選ばせなかった。

 ハイドリッヒの財産として、彼女たちは黒の巫女の所有となり、ウィルヘルムの願いにより、黒の巫女の寵妃となった。

 つかの間の平和、つかの間の幸せだった。


 ヴィーナスから下賜された館、モルダウ居館の一室で、コルネリアはそんな思い出に浸っていたのだ。

 いや逃避していたといってもいい。


 いま、ヴィーナスは出陣した。

 ハイドリッヒが犠牲になり、やっと掴んだエラムの平和なのに……

 フィンは二つに割れ、内乱が始まったのだ。


 ヴィーナスに味方する、モルダウ王国が属する南部は極めて劣勢、しかもヴィーナスの直属部隊も、ほとんどは再編途上、唯一といってもいい無傷の部隊、ロマノフ名誉騎士団も、西部辺境諸侯領平定に駆り出されている。


 ヴィーナスは少数の直属兵団を動員して、決戦に出ていった、それが昨日……


 四人は、

「お帰りをいつまでも待っています、万一の事があれば、私達もお供いたします」

 といい、その返事としてヴィーナスは、

「私は死にませんよ、この大きな皆さんのお乳は、だれにも渡すつもりはありませんから、死神にもです」

「だから帰ってきます、その時は夜の奉仕を強要しますからね」


 そんな返事を聞いても、モルダウ居館に住まう四人の寵妃は、それぞれ泣きそうな思いで、各自の部屋にこもっているのだ。


「ヴィーナス様……御無事で……もう嫌!もうこれ以上愛する方がいなくなるのは!」

「帰ってください、ここでなくてもいい、だれかのもとへ、帰ってください」


 隣の部屋の、クララの呟きが漏れてくる。

 そう、私もそう思う、帰ってきてください、私も叫ぶ……


 昼、四人で食事となったが、皆、食欲などはなく、無言のままだった。

 あのしっかり者のシャルロッテさえも、目が赤く、泣いていたようだ。


 コルネリアはある決意をする、そしてそれを言葉にした。

「私、行くわ、ヴィーナス様のお役にたちに」


「行くといっても何処へ?」

「決まっている、戦場です」

「コルネリア!お邪魔です」


「いえ、ナイチンゲール看護婦人会に入って、少しでも、お役にたちに行くつもり。」

「……」


「私も行く!」

「そうです、ここで待っていても苦しいばかり、もしヴィーナス様が敗れる事が有れば、私が盾になる」

「矢ぐらいなら、私の身体で代われる」


 次の日、四人はナイチンゲール看護婦人会の制服を身につけていた。


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