血まみれのプディング


 ダニエラが部屋を出て行ったのを確認して、グレンフォード侯爵はすぐに、一族の主だったものを集めた。

 ただ反旗を翻したブレイスフォード子爵などは除いたが。


「皆、この部屋でビクトリア・グレンフォード様をしのぶ夕食会を行う、ただしお客が一人ある、献立は血まみれのプディングだ」

 驚いたような顔が並んでいます。


 血まみれのプディングとは、ビクトリア・グレンフォードが、側室を守りトレディアを脱出して、側室のお腹にいた初代グレンフォードの為に、血だらけの身体で作ったといわれるプディングのこと。

 ビクトリア・グレンフォードは、この簡単なプディングが、好物だったと伝えられている。


 このプディングは、グレンフォード一族だけで食する決まりがある。

 それを破る、と当主が云うのであるから、驚くのも無理はない。

「皆のいいたい事は理解している、しかしお客が、本人とするなら別であろう」


 ……


 一人が、

「ご当主は確信をお持ちか?」

「持っている、300年前の人物ではあるが、なぜかは判らぬが、確信が持てるのだ」


「たしかに、ご本人なら、血まみれのプディングはお懐かしいでしょうな、たしか、あのプディングのレシピは我らしか知らないのですから……」


 ビクトリアは申し出を受けて、夕食にやってきた。

「良くおいで下さいました、ここにいる者どもは、グレンフォードの主だった者ども、ぜひビクトリア殿に、お目にかかりたいと集まりました」


「感謝の意味も込めて、グレンフォード一族の歓待をお受けしてください、ただこのような状況ですので、豪華な食事とはいきませんが」


「お気持ち、痛み入る」


 そして、問題の物が出てきた。

 ビクトリアは懐かしかった、このプディングは、トレディアを出てから食べていないのだ。

 自分で作ろうかとも思ったが、何となく料理をする気にならなかったのが、理由ではある。


 うまそうに食べて、思わず感想を漏らした。

「懐かしい、昔は良く食べた、肉のローストの下においての焼き具合が絶妙……ソーセージが良く合う」


 血まみれのプディングというのは、テラのヨークシャー・プディングの原型ともいえるドリッピング・プディングに近い。

 ビクトリアの頃には、ソーセージとともに、食べるものだった。


 居並ぶグレンフォード一族の面々は確信した。

 ビクトリア・グレンフォード様と会食しているのだと……

 バーナード・グレンフォードが代表して云った。


「ビクトリア殿、我らはビクトリア殿を一族と思い、いつでもビクトリア殿を歓迎いたします」

 その時、ビクトリアの横に、初代グレンフォードが立ち、跪いたのがグレンフォードの面々には、はっきりとみえた。


 以来、ビクトリアはトレディアに良く滞在することになる。

 ヴィーナスがはっきりと、グレンフォード侯爵に対して、ビクトリア・グレンフォード本人と云ったのが、表向きの決め手ではあるが、この会食でグレンフォード一族は、ビクトリアがだれかを知ったのだ。


 西部辺境諸侯領も収まり、グレンフォードは公爵になり、ギッシュ家もホラズムの伯爵領を返還され、特別にダニエラの功績が認められ、加増され侯爵になった。

 そしてトレディアの領地、これは男爵領なのだが、ヴィーナスへ献上となったが……


「ビクトリア様、私に男爵領を預けると?」

「そうだ、この新しく成立した、アッタル騎士団領にお前は必要だ」

「グレンフォード公爵は、私と同じで戦うことしか知らぬ、サリーがヴィーナス様にお前を勧めたのだ」


 ポッと赤くなったダニエラに、ビクトリアは云った、

「バロネス・ダニエラ・ギッシュ、女官に任命、即日に退官して、ハウスキーパー付の事務官に採用される」

「これが任命証だ。なお、アッタル騎士団領事務官も兼務とする」


 これで退官しても、女官だった事で、ダニエラもヴィーナスの保護が掛かる。

「さて、いくか、サリーやアリスへも、赴任の挨拶をしなければなるまい」


 ビクトリアの言葉に、ダニエラは嬉しそうに頷いた。


    FIN

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