侍女修行


 ギッシュ伯爵一家を、トレディア城に送り届け、絶大な感謝にくすぐったい思いをし、ダニエラの尊敬のまなざしを受けて、サリーさんは、人助けも良い物と思ったようです。


 その後、リリータウンに戻ったサリーさんは、アリスさんに云いました。

「私もギッシュ伯爵家の執事さんのように、心をこめてお仕えしたい、可愛がってもらえる、という物はいいものですね」


「でも、お仕えするなら、もう少し修行しなければ……」

 アリスさんの言葉に、同意するしかないサリーでした。


「いい機会ではありませんか、この際、ギッシュ伯爵夫人に協力してもらいましょう」

「見ていましたが、珍しく信用のおける夫人ですから、だからいますこし、助けてあげましょう、私も行くわ」

 アリスさんが珍しく、このような事をいいました。


 そこで、二人は安直に、トレディアのギッシュ伯爵の領地にある、館に転移しました。

「また来ました、今日は先生も一緒です」


「やっと落ち着きました、いつでも歓迎しますよ」

 と、伯爵夫人は優しく歓迎してくれます。

 まだ召使もいないようで、夫人とダニエラさんが、忙しそうに働いています。


 アリスさんが、

「先ごろはすいませんでした、恥ずかしかったもので……」

「いえ、かまいませんよ、ところで、先生の御用向きはなんでしょぅか」


 アリスさんとサリーさんは、このたび、やんごとない方にお仕えする事になり、侍女としての立ち振る舞いを、教えていただきたい、そうお願いしました。


 そして、イーゼルにいる元の使用人の方がたで、希望する方がいれば、転移をさせよう、そのような条件を切りだしますと、

「ご迷惑でなければお願いします」

 と、頭を下げられた二人でした。


 その結果は、物凄い物でした。

 アリスさんは、執事さんの小さい家ごと、転移させたのですから、それこそ根こそぎに……


 先生である、アリスさんの破天荒な魔力を目の当たりにして、リリアン・ギッシュ伯爵夫人は言葉もありません。


 さらに、突然の出来ごとに驚いている執事さんに、だれを転移すれば良いか聞きますと、四名ほど名を挙げました。

 そのうち二人は、若夫婦のようです。


 さすがに家がありませんので、私物一切を転移する事にしましたが、調子に乗ったアリスさんは、

「この際、お家も作りましょう♪」

 と、そういって……

 可愛いお家を、三軒作り上げました、その辺の木を分解して、組み上げたのです。


 これにはサリーさんも、唖然としました。

「サリーさん、こんなことで驚いていてはだめですね、お仕えする方の力は、こんなものではありませんよ」


「あの……、そのお仕えする方とは、もしや……」

 ギッシュ伯爵夫人が、思い当たったのか、聞こうとしますが、アリスさんが、

「その名前はだしてはいけません」

 と、ピシャッといいます。


「そうでしたね、失礼しました、とにかく事情は把握しました、なるほどそれなら判ります」


 その後、お茶の入れ方、歩き方、召使いの心得などなど、結構厳しい物がありましたが、もともと素質があったのか、天性の美貌に、気品がついてきたサリーさんです。


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