ジューン


「貴女は……」

「見習いの動力魔法使いです」


「アメリア様をここに運びましたら、列車長に医療魔法をせよと命じられて……でも力足りなく、申し訳ありません」


「そうでしたね、思い出しました、列車はどうなりましたか?」

「ご安心ください、定刻にシビルを発車し、現在カルシュへ向かっています」

「王都ホッパリアへは、予定通りに到着いたします」


「よかった……パリスの為には、なんとしても商談を成功させねば、内乱による敗戦で国は疲労している、新しいパリス連合王国の為にも、アウセクリス女王陛下のご信任にお答えするためにも、遅延は出来なかったのです」


「貴女、お名前は?」

「ジューンと申します」

「見たところ、アンクレットをおつけになっていますね、女官を退官されたのですか?」


「自身の望みで魔法学校へ入学し、このたび卒業と同時に、女官を退官しました」

「そうですか、それはさぞご両親もお喜びでしょうね」

「……私は孤児なもので……」


「……ごめんなさい、すこし立ち入って、聞いてもいいですか?」

「構いませんが……」


「お一人で、魔法学校の入学魔力テストに、合格したのですか?」

「はい、エラムの戦乱を必死で生きて来て、恥ずかしい思いもしましたが、やっとシビルまでたどり着きました」


「ヴィーナス様の実業学校にはいれば、何とか一人でも生きていけると考え、魔法学校の扉を叩きました」

「準備も出来ませんでしたが、試験官が、なぜか合格にしてくれました」


「本当に失礼なことを聞きますが、恥ずかしい思いとは……」

「……ご想像通り、身体を売って生きていました」


 ジューンを散々に玩具にした男たちが、投げてよこした貨幣……

 チャリンと床に跳ね返った音が、耳にこだまします。


 悔しかった……悲しかった……

 記憶が過去に戻って、ジューンはしらず涙が込みあがります……男なんて……


 突然、だれかに抱きしめられます。

 幼いころ、優しかった母に、抱きしめられた感触……

 ママ……


 アメリアが、ジューンを抱きしめてくれています。

 ジューンは何といえばいいのか、言葉が見当たりません……


「ジューン、苦労しましたね、でも、努力のおかげで、明日を手に入れたのですよ」

「陽は登ったのです、苦しい夜は終わったのです」

 アメリアは、はっと思う事がありました。


 そう、エラムと瓜二つ、ジューンにたいして、いっている言葉は、ヴィーナスがエラムに対して、いっている言葉では……


 ジューンを思わず抱きしめたように、ヴィーナスは、エラムを思わず抱きしめたのだと、優しくその両手で、母のように……


 アウセクリス様……

 貴女様は、このような想いでエラムを……母なる黒の女神さまの御使い、黒の巫女様……


 その時、アメリアは、力強く抱き返されるのがわかります……

 ママ……ママ……

 ジューンが泣きながら、抱きついてきました。


 王都ホッパリアへ向け、ひた走る『特別急行 氷結の魔女号』を、二つの月が優しく照らしていました。


 その後、どうなったかって?


 氷結の魔女号は無事定刻にホッパリアへつき、アメリアの完璧なホステス役のおかげか、鼻の下を伸ばしたおっさんたちと、商談は順調に進展……


 この時、アメリアの横には、ジューンがつき従っていました。

 アメリアさんに、可愛い妹が出来たようです。


 この後、ジューンは非番の時に、よくアメリアを訪ねてきて、二人で仲良くお茶などをしているのが、パリスの街では、見受けられるようになりました。


    FIN

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