第五序列魔法


 シビル・ステーションに、氷結の魔女号が滑り込んだ時、アメリアの顔には、疲労の色がありありと浮かんでいました。

 補助動力を全開で動かせば、疲労は大変な物となります。


 ジューンは思わず駆けより、

「アメリア様、大丈夫ですか!」

「大丈夫、でも後はお願いできますか?」

 と、アメリア様は返事を返したのです。


「シビルにつけば、後は難しい鉄路ではありません、交代の動力魔法使いで、十分対処できます」

「必ず定刻に、王都ホッパリアへつきます、アメリア様はどうか、お休みになってください」


 ジューンはアメリアを抱き抱え、すぐにステーション貴賓室へ運ぼうとしましたが、

「列車へ運んでください、私の仕事は、ホッパリアで待っているのです、後一日あれば回復します」

 アメリアが云うので、ジューンは列車へ運ぶ事にしました。


 ジューンに抱えられたアメリアの軽い事、健康で頑丈が取り柄のジューンには、想像できない華奢な身体です。

 抱えているうちに、アメリアは疲れたのか、眠りに入りました。


 こんな華奢な方が、シビルまで補助動力を全開で、列車を走らすなんて……

 動力魔法課程の、第五期卒業生のジューンには、それがどのように困難な事か……

 信じられない事を目のあたりにしている、それが実感なのです。


 車掌が飛んできました。

「アメリア様!」


 ジューンは仔細に、状況を説明しますが、そろそろ発車の時刻です。

 戻ろうとするジューンを捕まえ、車掌は、

「君は魔法学校の出身だな、たしかある程度の医療魔法が使えるはず」


「見習いなら、ここから先は乗務しなくても良い、列車長の権限をもって、アメリア様の看護を命じる」

「機関車のクルーには、私から伝える」

 そう云うと、車両に必ず一つは設置してある、機関車との連絡用伝声管で伝えました。


 氷結の魔女号は、暫しの停車の後、カルシュを経由して、アムリア王国の王都ホッパリアへ進路を向けます。


 高原地帯にあるシビル一帯は、気温が低下していますが、この後の登りはありません。

 圧縮空気の、魔法動力は息を吹き返します、冷気を吐きだしながら……


 夜半になると雨は止み、風も収まりはじめ、空にはエラムの二つの月があがります。

 夜間走行の場合、見習い機関士が、先頭にあるランプに明かりを灯します。

 これは偏光ガラスになっていて、進路前方を照らします。


 なにはともあれ、この魔法動力機関車は、古代程度の科学技術しかないエラムでは、ありえない技術です。

 近代の技術なのですが、何とか維持管理は、出来るように造られています。


 あとでわかったのですが、この時の編成は四両編成、これではシビルへ向かう山岳地帯は、力不足なのです。

 以後、氷結の魔女号は、必ず三両編成を厳守することになりました。


 列車内では、ジューンがなれない医療魔法を発動しています。

 魔法学校での説明によると、魔法には序列があり、一般の魔法使いが使えるのは第六序列、レギュラーと呼ばれる段階で第五序列にあがるには、大変な修行が必要と教えられました。


 この上の第四序列にあがったのは、古代の伝説のレムリアの大魔道師だけ、噂によれば、夫人の位を持つ方たちは、第五序列といわれていますが、説明はありません。


 ただジューンたちが使う命令、つまり声に出して魔法名を唱えるのとは、根本的に違うらしいのですが、これも一切の説明はありません。

 学校で教えてくれるのは、魔法の種類と発動方法、正式な魔法名の唱え方です。


 とにかく、なんとか疲労回復の魔法をとなえましたが、効きません。

 そうこうしているうちに、アメリアの赤銅色のチョーカーが、再び今度は小さく輝きました。

 アメリアの身体を、何かが包むように……


 明らかに、魔力が自動的に発動されているのが、魔法使いのはしくれである、ジューンにもわかります。

 見る見るうちにアメリアの青白い顔に、紅が差してくるような、朝に垣間見た、美しいアメリアに戻ってきました。


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