寵妃アメリア


 なにより、列車の遅延は商談の致命傷……

 アメリアは必死になって、ある方を頭の中で呼び続けました。


 薫、ヴィーナスからこの惑星エラムの管理監視を命ぜられている、有機体アンドロイドの名前です。

 アメリアはそこまで知りませんが、比類なき大魔法使いとは認識しています。


 その薫様に、アメリアは必死になって呼び続けました。

「何事でしょう、アメリア?」

 頭の中に薫様の声が響きました。


 アメリアは状況を説明、遅延がパリス復興をかけた、商業使節派遣団による商談に悪影響が出ると訴えました。


 しばらく考えたのでしょう、薫様が、

「アメリア、私が手助けするのは簡単ですが、自ら努力することが必要と、マスター、つまりヴィーナス様は常々おっしゃっています」


「しかしほってもおけないでしょう、パリスの繁栄は必要です」

「そこでアメリア、貴女が補助動力を動かしなさい」

「夫人のチョーカーの魔力は絶大です、補助動力はそれに反応するでしょう」


「貴女のチョーカーを代わりに補助動力につなぐのです。動力車のチョーカー保管金庫には金の鎖もあるはずです、その鎖は側女以上のチョーカーに付けられます、それを使用してください」


 アメリアは生まれて初めて肉体労働をする決意をします。

「わかりました」と、返事をしました。


 薫様が、

「いまより動力車へ転送しましょう、貴女ならシビルまで通常走行の速度で、補助動力を動かす事は可能でしょう」


 アメリアは車掌に、「私が今より動力車へ行きます」と伝え、転移しました。


 アメリアが転移してきた時、動力車では動力魔法使いが疲弊しきってしまい、交代の動力魔法使いを呼ぼうとしていた時です。


「交代は無用です、次の者が疲弊しては、列車がホッパリアまでたどり着きません、とにかく列車を止めなさい」

 機関士が氷結の魔女号を停車させます。


 アメリアは疲労困憊の動力魔法使いから、チョーカーを外し金庫に格納しました。

 そして金の鎖を自身のチョーカーにつなぎ、さらに補助動力につなぎました。


 赤銅色のチョーカーが鮮やかに赤く輝き始めます、と補助動力が動き始めます。

 すると動力魔法使いでは出せないほどの加速で、列車は動き始めました。


 ジューンは驚きを隠せませんでした。

 一心に魔力を集中している、このたぐいまれなるショートカットの美女を食い入るように見つめました。

 これが夫人といわれる方の魔力……


 その横顔は美しく、自分がいかに新米か、思い知った一瞬でしたが、その横顔にドキッとしたのも事実です。

 胸がドキドキしたのです。


 再び氷結の魔女号は、矢のようなスピードで疾走を始めます。

 激しくなる雨風を物ともせずに、シビルへ予定通り着きました。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る