第三章 アメリアの物語 特別急行 氷結の魔女号
見習い動力魔法使い
大陸馬車鉄道の見習い動力魔法使いジューンさんは、初めて憧れの『特別急行 氷結の魔女号』乗務を命じられた。
しかしそれは臨時運行、パリス連合王国の寵妃アメリアが商業施設団を率いて、ホッパリアへ向かうために乗りこんできたのだ。
絶対に遅延が許されないのに、山岳区間で雨風が激しくなり動力輪は空転……その時、寵妃アメリアはある決意をするが……
* * * * *
大陸馬車鉄道の見習い動力魔法使いのジューンさんは、その日、上司であるパリスステーションのルートピッヒ駅長より、呼び出しを受けました。
動力魔法使いというのは、惑星エラムの世界の中でただ一つの動力機関、圧縮空気エンジンを動かす事の出来る魔法使いの事です。
惑星エラムでは魔法動力といわれ、これを動かす事の出来るのは、エラムの至高の存在である黒の巫女、ヴィーナス様が設立した魔法学校の動力魔法課程の卒業生だけ。
この魔法学校は女学校で、基本的にヴィーナス様の女官だけが通える学校です。
神殿都市シビルのヴィーナス様のハレムの中にあります。
一応女奴隷として購入される形になりますが、入学と同時に購入された代金を供託金とすれば、卒業と同時に供託金で、自身を解放できることになっています。
ただこの場合、女官に支払われる給料はなく、女官補としての労働が学費、食費、家賃などとの相殺となり、放課後から女官補としての仕事をすることになります。
つまりタダで魔法学校に通えるシステムになっているのです。
本来女官というのは、容姿端麗が最低条件ではありますが、魔法学校だけはその才能が認められれば、容姿端麗の条件はかなり緩和されることになっています。
ジューンさんのようにすこし可愛いい程度でも、入学魔法テストに合格すれば道は開かれるのです。
とてつもない才能があればさらに条件は緩和され、とても可哀想な娘でも何ら問題はないし、その場合、遺伝子上の許される範囲内で綺麗になれる。
つまりヴィーナス様の女官で在る以上は、美女でなければならない。
惑星エラムでは女の立場は非常に弱く、保護者により売買されることも許容される世界。
その様な世界でも、ヴィーナス様の女官となれば話は別、誇り高い騎士団員といえどそれなりの敬意を表します。
それは女官退官後でも続く事になるのです。
したがってヴィーナス様の実業女学校卒業生で、女官に成らなかった者でも、その知識により女一人でも生きていく道が開かれています。
ヴィーナス様の女官の退官者には、アンクレット、つまり足枷が贈られることになっています。
これは女官補にも適用されます。
彼女たちはこれを右足首につける、つまり独身、恋人募集中という意味で、もし婚姻すれば左足首、つまり所有されている証となるのです。
アンクレットをつけている女に対しては、ヴィーナス様の保護がそれなりにあります。
その為、皆そんなに無茶をしない。
たとえ人攫いとしても、アンクレットをつけた女には手を出さない。
過去にヴィーナス様の女を攫った者がどうなったかは、裏の世界では有名な話。
ヴィーナス様は裏ではルシファーと呼ばれている事が、全てを物語っています。
もっとも惑星エラムの広域治安機関である、特別高等警察が黙っているはずは無いのですが。
この特別高等警察は、裏社会に対しては容赦がないことで有名なのです。
勿論、ジューンさんもこれ見よがしに右足首に付けています。
すれ違う娘の羨望の眼差しが心地よいからです。
先ごろ五年の課程を何とかこなして、かなり下の方ではあるが卒業もできました。
念願の大陸馬車鉄道の動力魔法使いになれたのです。
見習いではあるが、孤児であるジューンさんとしては感無量、ただ残念なのはヴィーナス様の寵妃にはなれなかった事……
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