これが女を拾ってくるということなのね!


「すこし周囲を散策してみましょう」

 青い空、岩と砂がほとんどの荒野に、満々と青い水をたたえた湖……

 彼方には、雪をかぶった峰々が連なります。


「綺麗……私……毎日、何をしていたの?」

 世界は広い……人は小さい……ちっぽけな人が、ちっぽけな争いをして……

 面子や利益などの、くだらないことで殺し合いをしている……


「つまらないの、生きる価値などあるのかしら?」

 有機体アンドロイドとして製造され、ヴィーナスを守り慰めるのが、本来の使命のアリスさん、人の愚行に対して容赦などありません。


「ヴィーナスお姉さまは、なんでこんな愚かな種族を救おうとするのかしら、だめといえば済んだのに……」


 ヴィーナスとは、アリスさんを製造せる者が、この惑星エラムの人類の存続を判定する審判として、異世界より呼び寄せた者。

 その叡智は比類がなく、判断の正しさはだれもが認める所、そのヴィーナスが、どうした事か理屈に合わない審判を下そうとしている。


 アリスさんにはそう思えてならない……そして今また、ヴィーナスの審判が間違っているように思えてならない……


「でもヴィーナスお姉さまはとても賢い方……何かこの人たちに生きる価値を見出したでしょうが……判らないわ!」


 そんなことを考えながら、湖畔に転がる大きな岩の上に腰をかけ、足をブラつかせながら考え込んでいます。


 空には白い雲が流れていますが、高地の冷気が日暮れをそれとなく示し始めた時、アリスさんは、かなり向こうの湖岸に動く物を認めました。


「何かしら?かなり遠いわ?」

 凝視してみていると、どうやら人のようです。

「何だ、人か?」

 どうも二人いるようですが……一人は動くことをしません、もう一人が側で何かをしています。


 有機体アンドロイドの類まれなる視力が、それを二人の女、それも少女と認めます。

「いけない、一人は倒れている」


 アリスさんは、ヴィーナスが人をよく助けている事を思い出しました。

 そしてよく女を拾ってくると、サリーさんあたりに、嫌みをいわれているのを思い出しました。


「捨ててはおけないのでは……これが女を拾ってくると、いうことなのね!」


 アリスさんのチョーカーは金、二人のいる場所へ転移するなど簡単な事です。


「どうしたの?」

 アリスさんが声をかけました。


 そこにはアリスさんより、年下に見える女の子が倒れており、さらに幼い十歳ぐらいの子が、一心に身体をさすっています。

「たすけて、お姉ちゃんが、死んじゃう!」


 見れば倒れている子は蒼い顔をしています、

 アリスさんの見る所、空腹で倒れていたようです。

 重傷にはなっていないようですね。


「栄養失調で倒れたのね、とにかく私のキャンプまで来る?」

 その子は頷きましたので、アリスさんは倒れている子をおぶって、下の子に、

「私にしっかりくっついているのよ」


 二人をつれて先程苦労して設営したキャンプ地へ転移します。

 とにかく体力をつけさせなければ、タンパク質が必要です。

 しかも上の子は倒れた時に、水たまりにはまり服を濡らしたようです。



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