アリスさん、癒しの小さな旅にでる


 アリスさん、愚痴っています。

 大体、女官長とは百戦錬磨の女たち。

 苦労人が多く、よく、アリスさんの愚痴の相手などもしてくれます。


 アンリエッタ首席女官長が、

「アリス様、ストレスが溜まっているようですね」

「いくらアリス様でもストレスは怖いですよ、お肌にも悪いし……すこし休暇をいただいたら、どうでしょう」


「ストレス?休暇ね……そういえば、一度もいただいた事はありません」

「たまには自分自身の事を考えないと、いつも他人の事ばかり考えていると、自分を見失うことになりますよ」

 と、エリザベート女官長もいってくれます。


「私たちが、サリー様とヴィーナス様に申し上げましょうか?」

「……」

 二人の女官長は笑いながら、

「アリス様、年上の女に任せなさい、少し自分を見つめる為に、休暇を貰いなさい」


 で、結局アリスさんは、休暇をヴィーナスより貰い、ささやかに、二泊三日のキャンプをすることにしました。


 小雪お姉さまが、リリータウンの管理を代わってくれます。

「ねえアリス、お料理は大丈夫?」


 サリーさんが心配そうに云いますが、

「大丈夫、ヴィーナスお姉さまの一番弟子は私!」

 ダフネさんと違い、一応は食べられるものを作れますから……


 私はカバンを持って、キャンプへGOです。

 16.5cm(横)X 約18cm(縦)X約6.5cm(奥行き)のショルダー式の、帆布製のミリタリーバックで通称『小さいカバン』を肩にかけています。


 この『カバン』というものは、愛人だけが持つ特別のカバンで、ヴィーナスお姉さまが、エラムを視察する時に設定された、サバイバルグッツを詰めたものです。


 小さいカバンはその中より、大きいカバンを取り出し、その中よりさらにもっと大きな、折りたたみ収納バッグを出す事ができます。


 取りあえず、小さいカバンからは、通販カタログという物が取り出せ、それから選ぶと、カバンの中に物があるということになります。


 これさえあれば、何があっても大丈夫、まして金のチョーカーの持ち主、どんな事態になっても、アリスさんは怪我一つ、負う事も無いはずです。


「さて、どこへ行きましょう……」

 アリスさん、とんでもない場所を選びます。


 大陸南部、辺境と呼ばれた土地、その中心都市ネメシスより南にある、高地の中の湖の岸辺です。


 盗賊が横行し、治安も劣悪なのがこの辺り一帯、その中でも最悪といわれるのが、この湖の東岸です。

 地球でいうところの、標高四千メートルを超えた所、草木もまばらな荒野に、青い湖が広がっていて景色は絶景です。


 そのような場所で、平然とアリスさんは、キャンプの準備を始めます。

 ここでふと、ヴィーナスさんが云っていた事を思い出しました。


 雨対策、浸水防止の為に、少し小高い場所を選び、排水溝を作ります。

「これでいいわ、私って用意周到ね♪アリスって賢い!」


「大きいカバンをだして、折りたたみ収納バッグをだして……と、あったあった、簡単設営ワンタッチテント!なになに、十五秒で設営可能……」


 ……なんで十分もかかったの?

「さらにペグを打ち込んで……と、完成!」


「あとはベッドと……このテントは二人用……まぁ大きいのが好いわ、手足を伸ばして寝られるもんね!」


 ポンプインエアベッドのツインサイズを取り出して、内臓ポンプでふくらまして……フライシートの上にドーンとのせたアリスさんでした。


 インナーシーツを出して、サーモライトビビーサックと呼ぶものをだして、この二つは単独でもシュラフとして使えます。


「ここは標高四千メートルの高地……少し寒いですかね……その時は本格的なシュラフが必要かな……」

 独り言をいうアリスさん、でも、何故かご機嫌です。


 結局、準備が終わったのは午後遅く。

 お昼をつくるのが、面倒臭くなったアリスさんは、缶詰のパンと缶ミルクを取り出して、簡単な食事をとりました。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る