風の魔女


 ……イシュタル様、エラムを統べる黒の巫女様、このペネロペに力をお貸し下さい!……

 そう一心に願うと、ペネロペの首に巻かれていたチョーカーが鈍く輝き始めました。

 ペネロペの周りの空気がゆがみ始めます。


 無意識にペネロペが一人の兵士を指差します。

 ヒュンと空気の振動する音がしたかと思うと、その兵士は壁へ叩きつけられて気絶しました。


 だれもが唖然としていますが、副隊長が斬りかかってきました。

 武術のたしなみなどこれっぽっちもないペネロペ……


 エリカは悲鳴をあげましたが、身体が恐怖で動きません。


 再びヒュンと空気の振動する音、剣が吹き飛びます。

「くそ、お前は魔女だったのか、不覚!」

 そのまま壁に叩きつけられました。


 これをきっかけに、ペネロペの周りを風が渦巻き始めます。

 そのまま残りの兵士をなぎ倒して、あっという間に兵士は気絶してしまいました。

「エリカ、シーツでも何でもいいから、この人たちを縛って、ドリスもお願い!」


 ペネロペはそのまま部屋の外にでます。

 王宮のハレムには、居てはいけない男たちが大量にいます。

 その王宮の一室で、ニコル女官長が残りの女官と、武装して必死で戦っています。


 ハレムの外では、まだ護衛の兵士たちと、反乱軍が闘っていますが、多勢に無勢、トール隊長のジャバの正規軍、突撃隊が来るまで持ちこたえそうにありません。


 ペネロペは再び願いました。

……イシュタル様、皆をお救いください、ペネロペの願いをお聞きください……


 突然大音響がしたかと思うと、ペネロペを守るように取り巻いていた風の渦が、四方八方に飛び散り、通路という通路を風が走り抜け始めます。


 室内を暴風のように、触れるもの全てを打ち壊すように、

 ドアを打ち破り、反乱軍をなぎ倒し、

 ハレムの中の敵を一掃すると、風はさらに荒れ狂い、

 獲物を求めてハレムの外へ、走り抜けます。


 屋外に出ると、風はさらに強大に、トルネードのように成長します。

 突然に無数にはじけて、反乱軍に超高速の空気の塊が、降り注ぎます。

 不思議な事に、手足を狙って打ち抜きました。


 そして突然に風は消えました。


 エリカとドリスは、いつまでたっても帰らない、ペネロペが心配になりました。

 瓦礫の山となった、ハレムの中を捜しましたが、ペネロペは何処にもいません。


 そのままハレムの外に出ますと、中庭にペネロペが倒れていました、真っ青な顔でしたが、小さく息をしています。


 あわてて二人は、ペネロペを抱えて、部屋に戻りますが……

 ペネロペは二日間、意識が戻りませんでした。


 ペネロペがやっと目覚めたのは真夜中、窓からは惑星エラムの二つの月が輝いています。


「ペネロペ様!」

 エリカの、涙でくしゃくしゃの顔が見えました。

 部屋には大勢の女官がいます。


「ドリス様、ペネロペ様が!」

 仮眠していたドリスさんが飛び起き、こちらもくしゃくしゃの顔で、

「叔母様!良かった……本当に良かった……死んだのかと思った……」


「死にませんよ、イシュタル様がおっしゃっていたではありませんか、チョーカーは所有者を守ると」


「あの時、私は必死で願ったのです」

「チョーカーは私を守るために、魔力を発動したのでしょう」


「後は我が身を危険にさらせば、私を守るために敵を滅すると思ったのです、でも必死でした」


 急にペネロペは身体中が震え始めました。

 両手で身体を抱え込んで、

「今頃になって、怖くなってきました」


「そうなのですか」

 突然、ニコル女官長が入ってきました。

 ペネロペが目覚めたと知らせを受け、走ってきたのです。


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