ジャバ王宮の朝


 ペネロペは三十手前の、それは綺麗な女性。

 エリカも、人が振り向くほどの美人ではありますが、エリカ自身は、ペネロペには敵わないと思っています。


「おはようございます」

「エリカ、今日も元気そうね」


「私は元気だけが取り柄ですから」


 ペネロペはエリカを見て微笑みました。

 エリカはいつも思うのですが、なぜ、この優しい微笑みの似合う、美しいペネロペ様を、イシュタル様は常にお側におかないのか?

 イシュタル様は、女を見る目がないのだと。


 ペネロペにそのように言うと、彼女は寂しそうにしながら、

「エリカ、私なんてそんなに綺麗でもないのよ、イシュタル様には、お情けで私を抱いてくれたのです」

「でも……ありがとう、エリカはいつも私の味方なのね」


「エリカ、朝食はすこし待ってね、もうすぐドリスが来るの、ドリスと一緒に食べようと思っているの」

 ドリスはペネロペの従妹、前ジャバ国王の娘、勝気な娘です。


 エリカはペネロペとドリスの為に、にがり草のパンとお茶、果物、そして女官学校で覚えたスープを、用意している所へ、ドリスがやってきたようです。


 いつもはコナにいて、黒の巫女の愛人、金のチョーカーの持ち主、ミレーヌの下で、コナの行政責任者として働いているのですが、一週間の休暇を貰い、故郷でもあるこのジャバの都、ハニーに戻ってきているのです。


「ドリスが来たわ、騒々しい事」

「おばさま、お久しぶりです」


「ドリスさん、もう少し、お淑やかにできませんか、それではイシュタル様に棄てられますよ」

「大丈夫、イシュタル様に愛されるように、日々努力しています」

「それに、煙いアポロ執政もお出かけの模様、ニコルさんも、のんびりとしていましたから」


「ねえ、ドリス、常日頃が大切なのですよ」

「おばさま、取りあえずは朝ごはんにいたしませんか、私、今ならお皿ごと食べられます」


 ドリスは、ペネロペのお説教が始まる前に、話題を強引に変えてしまいます。

 どうやら、ペネロペのお説教は耳たこ状態、若いので、年上のいうことなどあまり聞かないようです。


「まったく……エリカさん、お食事にしましょう」

 ペネロペはドリス、というよりドリスの母親、今は亡き王妃に義理がある。


 王妃は黒の巫女の前で、亡き夫の愚行をわび、止める間もなく自決をし、そして苦しい息の下から、ペネロペたち、残された女たちのいく末を、ヴィーナスに懇願したのです。


 そして今の静かな生活があると、ペネロペは思って、何かとこの鼻っ柱の強いじゃじゃ馬を、妹のように接しているのです。


 ジャバ王国は、いまやエラムでも第一の国力といってもよく、前国王時代の、あの貧しい時代が嘘のようです。

 ジャバ王国の繁栄は、塩の生産流通を一手に握ったことによります。


 その昔、ウミサソリキングという、海浜にすむ化け物のおかげで、塩は鉱山で採掘するものだったのです。

 ヴィーナスが風車なるもの考案し、安全に塩をくみ上げ、内陸に作った塩田で、塩を量産する体制をアポロ執政が整えたおかげです。


 ジャバは塩の富で栄え、今やその富でさらなる富、金融を支配しようとしているのです。

 ペネロペはこの繁栄に接するたびに、叔父の時代に王族としての責任を、何一つしなかった自分を情けなく思うのです。


 せめてなにか役に立てれば、そう思うペネロペなのです。


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