ヴィーナスの女たちⅠ 特別急行 氷結の魔女号 【ノーマル版】  

ミスター愛妻

ヴィーナスの女たちⅠ 特別急行 氷結の魔女号

第一章 ペネロペの物語 和解

女王の寵妃

 惑星エラムにあるジャバ王国……寵妃ペネロペさんに起こったある出来事……

 男子禁制のハレムに反乱軍が……お淑やかなペネロペさん、どうするの?


     * * * * *


 このころエラムでは、北方列島の蛮族の大陸侵攻、いわゆる動乱も終わり、続いて始まった、タリン王国の反乱も終息したころでした。


 ジャバ王宮のエリカの一日は、ペネロペへの朝のご機嫌伺いから始まります。

 新米女官であるエリカを、ニコル女官長は黒の巫女でもあるイシュタル女王の寵妃、ペネロペ付きの侍女としたからです。


 そもそもこの惑星エラムは、バンアレン帯が弱く、その関係で、劣勢遺伝子である男性染色体が機能不全を起こし、結果的に女性過多の世界となっています。


 その為、一夫多妻制のほかに、女性婚多妻制が存在している上に、女性過多解消のために、奴隷制度も厳然と存在しています。


 エラムの婚姻では、妻は所有されるもの、売買も相続もできる、ある意味、財産です。

 したがって、主人が他の者に妻を提供しようと思えば、可能ではあります。


 罰せられることはありません。

 これは女性婚の場合も同様で、妻に当たる女性は所有される事になるのです。


 しかし罰せられなくとも、妻を提供することは滅多にありません。

 ただ、このエラムの至高の存在である、黒の巫女に妻を提供することは、名誉なこととされています。

 もし妻が、黒の巫女に寵愛されるほどの女となれば、その様な妻を娶っている男となります。


 黒の巫女の高官になり、エラムの権力中枢に位置する者となれば、妻が寵愛されないと、かなり世間の冷たい視線にさらされることになり、うっかりすると辞職を強要されかねないのです。


 従って、何が何でも二番目、三番目の妻として、美女を娶っておく必要が発生するのです。

 だれしも、失脚などはしたくないものですからね。


 ペネロペは前ジャバ国王の妹の娘です。

 前ジャバ国王はあまりの治世の酷さに、黒の巫女が乗り込んできた時、そのどさくさにまぎれて、部下に暗殺されてしまったのです。


 ジャバ王家は廃絶、結果、黒の巫女であるヴィーナスは、ジャバ女王を兼ねることになり、イシュタルと名乗る事になってしまったのです。


 廃絶となった王の一族は、本来なら男は処刑、女は奴隷市場に立つことになるのが当然の定めのはず。

 なぜかイシュタル女王は、王家の女は王族としての資格をはく奪、自由民とするという、ひどく寛大な処置を取ろうとしたのです。


 しかし、前国王の残虐行為にたいしての、民衆の報復から守るために、妻や娘を購入して保護する事にしました。

 おかげでペネロペは民衆の復讐にも会わず、イシュタル女王の寵妃となり、所有され寵愛される者となった訳です。


 その証(あかし)が首に巻かれたチョーカーなのです。

 ペネロペのチョーカーは赤銅色、夫人の地位を示しています。


 側女、夫人、佳人、麗人、愛人と五段階ある階級の、下から二番目です。

 しかし夫人の上の佳人と麗人はほとんどいない、最上位の愛人などは、これはもう特別で、エラムの住民自身もなれるとは思っていないはずです。


 チョーカーについている石は赤、ルベライトといわれていますが、エリカには分かりません。

 このチョーカーは、黒の巫女にしか外せません。


 チョーカーには、黒の巫女のたぐいまれなる魔力が籠められていて、自動防御機能と自動治療機能、しかも三十五歳を上限に歳を取らないといわれています。

 もっとも現在は三十歳を上限になっているのですが、女性たちの直訴のおかげだそうです。


 黒の巫女の寵愛を受けるということは、エラムの女にとって究極のあこがれ。

 その意味でも、エリカはペネロペを密かにあこがれているのです。

 そして自分も、せめて側女になれないかと考えたりしています。



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