第45話

 そう言えば昔、すげー泣き虫の女の子と一時期一緒に遊んでいた事を思い出した。

 まさか、あの泣き虫が彩葉?

 いや、でもここまで変わるか?

 今の彩葉は……なんというか大人っぽいし……落ち着いてるし……綺麗だし……。


「そう、その泣き虫。分からなかった?」


「わ、悪い……正直全然気がつかなかったし……え? ほ、本当に?」


「うん、私は色々ハッキリ覚えてるよ。一緒にお医者さんごっこをして……」


「あぁぁぁぁぁ!! お、思い出した!! 思い出したからそれ以上言わないで!!」


 思いだいした!

 完璧に思い出した!

 まさかお医者さんごっこの話しで完全に思い出すとは思わなかった……。

 そうだ、お医者さんごっこを昔した彩葉だ!

 昔、確か俺は何も分からずに彩葉とお医者さんごっこをして……あぁ、これ以上は恥ずかしくて思い出したくない……。


「思い出した?」


 ニコッと笑って俺にそう言う彩葉。


「ご、ごめん……あの時は……その……」


「え? なんで謝るの?」


「いや……子供だったとはいえ……あの……」


「あぁ、私の服を脱がせた事?」


 あぁぁぁぁぁ!!

 死にたい!

 もう消えて無くなりたい!!

 やっぱり覚えてたよ!

 もう嫌だ!!

 昔の事とは言え、改めて考えると俺は彩葉にとんでもない事をしたのだと改めて認識する。


「そんな昔の事、もう私気にしてないから、大丈夫だよ!」


「いや……俺が大丈夫じゃ無いんです……」


 なんでこんな最悪の形で思い出したんだろう……。

 俺が頭を抱えながらそんな事を考えていると、彩葉が話し始めた。


「私は……湊斗君と一緒の時が一番楽しかったよ」


「そ、そうなのか?」


「うん! 一緒に公園行ったり、虫を捕まえに行ったり……私にとってはどれも大切な思い出だよ。だから……忘れられなかったんだ……」


 俺の記憶が正しければ、俺と彩葉が一緒に居たのは、二年間の間だけのはずだ。

 その二年を彩葉はずっと覚えていたのか……。

 なんか、忘れてて申し訳ないな……。


「ずっと……好きだったんだ……小学校に入っても、中学校に行っても……ずっと湊斗君の事……忘れられなかった……」


「そ、そうだったのか……」


「だから、高校に進学して、この町に戻ってきた時にね、少し期待したの……また湊斗君に会えるんじゃないかって。そしたら同じ高校に居るんだもん、運命みたいなの感じちゃった」


「まぁ、そんな偶然早々無いもんな……」


「でも、残念な事に、湊斗君には彼女が出来ちゃってて……私は泣く泣く諦めたよ」


「うっ……す、すまん」


「あ、違うの! そういう意味じゃなくて……湊斗君は全然悪くないよ!」


 そうは言われても、そんな話しを聞くと申し訳無くなってくる……。

 

「でも……もう私負ける気はないよ」


「え?」


 俺がそう言って彩葉の方を見ると、彩葉俺の正面に立ち、俺の目を見つめて口を開く。


「春山湊斗君」


「え……な、なに?」


「私は貴方が大好き……だから……私と付き合って……」


 彩葉は俺の目を真っ直ぐ見ていた。

 視線を反らさず、ただ真っ直ぐに俺の目を見てそう言った。


「答えは……また今度聞かせて……今日は楽しかったよ」


 彩葉は笑顔でそう言い、俺に背中を向けて俺の前から立ち去った。

 

「……何も……言えなかったな……」


 俺はため息を吐きながら、頭に手を当てて呟く。

 

「ただいま」


 俺は自宅に帰ってベッドに寝転がった。

 スマホには彩葉からのメッセージが来ていた。

 

【今日は楽しかったよ! ありがとう!】


 俺は彩葉からのメッセージを見て笑みを溢す。

 しかし、それと同時に俺は先程彩葉に言われた言葉を思いだす。


「はぁ……どうしたら良いんだ……」


「青春の匂いね」


「うぉ! またか!!」


「アンタ、今日はデートだったんでしょ……どうだったのよ」


「別に……楽しかったけど」


「ならなんでそんな複雑そうな顔してるのよ?」


「そ、それは……」


「ま、まさかアンタ!! 二股を!?」


「ち、ちげーよ!! ちげーけど……」


 母さんに言われ、俺は少し考えてしまった。 二股をしている訳ではないが……なんだろうかこの罪悪感。


「まぁ、なんでも良いけど、子供だけは作るんじゃないわよ」


「作るか!!」


「あ! あと男に走るのもやめてね」


「走るか!!」


 母さんはそうだけ言うと部屋を出て行った。 まったく、毎回勝手に俺の部屋に入ってくるし……困ったもんだ。

 俺がそんな事を考えていると、スマホが音出して震え出した。


「ん? 誰だ? あぁ……藍原か」


 俺はスマホの画面を操作して藍原からの電話に出る。


「もしもし?」


『あ、もしもし? 私だけど……』


「なんだ? どうかしたか?」


『いや……その……で、デートって……いつにするのかなって……』


「あ! わ、悪い……全然考えてなかった」


『そ、そっか……そうだよね……清瀬さんと今日デートだったんだもんね』

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