第13話



「春山君」


「あ、清瀬さん」


 放課後、俺が帰ろうとしていると昨日に引き続いて清瀬さんが俺の事を迎えに来た。


「帰ろっ」


「あ、うん。じゃあ帰ろうか」


「あ、春山ちょっと待て」


 俺が鞄を持って清瀬さんと一緒に帰ろうとしていると、先生が俺の事を呼び止めた。


「はい?」


「春山、お前進路希望の用紙出してなかったろ」


「あ、そう言えば忘れてた……」


「お前なぁ……用紙やるから、職員室で書いてそのまま出せ。本当は昨日までだったんだぞ」


「わかりました、じゃあ今から行きます。清瀬さんごめん、先に帰ってて」


「うん、じゃあ今日は先に帰るね」


 清瀬さんは笑顔で俺にそう言ってくれた。

 迎えに来てくれた清瀬さんには悪い事をしたが、昨日は色々あって提出するのを忘れていたいたし仕方ない。

 俺は職員室に向かい、進路希望の用紙を記入して俺は職員室を後にした。


「はぁ……まだ二年なのに色々書かせるなぁ……」


 俺はそんな事を考えながら、教室に置いた鞄を取りに向かった。

 

「ん……」


 教室に向かうと、教室には藍原が居た。

 なんでまだ居るんだよ……。

 俺がそんな事を思っていると、教室にもう一人誰かがいる事に気がついた。

 誰だろうか?

 クラスの男子では無いようだが?

 イケメンだなぁ……なんかモテそうな感じがする。

 俺とは生きてる世界の違う人間だな。

 俺は気になってこっそりドアの隙間から中の様子を見ていた。


「藍原ってさ、春山と別れたんでしょ?」


「そうだけど」


「じゃあさ、良かったら俺と付き合わない? あんな奴よりも一緒に居て楽しいと思うよ」


 あんな奴って……お前に言われる筋合いはないんだよ!!

 俺が心の中で怒っていると、藍原が何かを言い始めた。


「そうね……あいつと居て楽しいって思ったことなんて無かったかもね……」


「だろ? 俺ならそんな思い君にさせないよ」


 はぁ……なんでだろう、もう別れたはずなのに、藍原にこんな事言われるのは少し傷つくなぁ……。

 まぁ……元とはいえ彼女だしな……。

 俺がそんな事を影で思っていると、藍原

が口を開いた。


「そうかもね……でも、私はアンタとは付き合えない」


「え!? なんで!!」


「アンタ……私のどこに惚れたの?」


「そ、それは……可愛いし……スタイルも……」


「そこ」


「え?」


「アンタとあの馬鹿の違い……あいつが私に告白してきた時……あいつは私の好きなところを十個も言ったのよ……今考えれば馬鹿みたいな告白だったけど……その時のあいつは、それだけ私を好きでいてくれたのよ……」


「で、でも別れてるじゃないか!!」


「えぇ、そう……だから、あの馬鹿以下のアンタと付き合っても同じよ……あの馬鹿よりも長続きしないと思う。だからごめんなさい」


「くっ……なんで……もう別れたはずだろ! なんで元カレの話しなんて出すんだよ!」


 男は腹が立ったのか、大きな声でそう言った。

 すると藍原は怯える様子も無く、静かに話し始める。


「……今まで……一番好きになったのがあいつだったからよ……」


 俺は藍原からのこの言葉を聞いた時、自分の胸が苦しくなるのを感じた。

 今更何を言ってるんだ?

 俺はそう思いながらも藍原の話しを聞いていた。


「確かに……私はあいつを振ったけど……好きだった事に変わりはないの。だから自然と比べちゃうのよ……」


「そ、そんな……」


 藍原はそう言うと、教室を後にしようとドアの方に向かってくる。

 ヤバイ! こっちに来る!!

 そう思った俺はどこか隠れられる場所は無いかと、慌てて辺りを見回す。


「仕方ない! 隣の教室に!!」


 俺は咄嗟に隣の教室に入り、身を潜めた。

 運良く隣の教室には誰もおらず、俺は藍原と男子生徒が去るのをその教室で待った。


「はぁ……なんだかなぁ……」


 俺は先程の藍原の言葉を聞き、少し複雑な気持ちでいた。

 別れたはずなのに……なんでこんなにも気になるのだろうか?

 まさか告白の時の事まで覚えているなんて。 正直少し嬉しかった。


「はぁ……今更何を言ってんだよ……あいつ……」


 俺はため息を吐きながら、スマホに残してある藍原の写真を見る。

 

「俺も……女々しいなぁ……」


 俺は藍原と男子生徒が居なくなったのを確認し、教室に鞄を取りに向かった。


「さて、帰るか……」


 俺は鞄を取り、そのまま昇降口に向かった。 清瀬さんは先に帰っちゃったし……なんか変なの見ちゃったし、なんか調子狂うなぁ ……。


「はぁ……藍原は俺が嫌いなんだよな?」


 そんな事を考えながら昇降口で靴を履き替えていると、タイミング悪く藍原がやってきてしまった。


「あ……」


「な……」


 藍原は俺を見た途端、俺を睨み付けて一言。

「今日はデートじゃないの?」


「な! う、うるせぇな……関係ねぇだろ……」


「そうよね……ごめんなさいね、モテ男さん」


 皮肉たっぷりにそう言ってくる藍原。 

 いつもなら腹が立つはずなのに、今日はなぜか複雑な気持ちだった。

 

「よかったわね、私よりも可愛い彼女が出来そうで」

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