第14話

「べ、別に……そんなんじゃ……ねぇよ……」


「へぇ~あっそ」


 藍原はそう言うと、機嫌悪そうにして靴を履き、外に出て行った。


「お幸せに」


 帰り際に藍原は俺にそう言い残して去って行った。


「相変わらずだな……あいつ……」


 まぁ、完璧に俺の事なんてどうでも良くなってんだろうな……。

 でも……そんな事を思ってるやつが、あんな事を言って告白を断る物だろうか……。


「俺も帰るか……」


 俺は藍原が出て行った少し後で昇降口を後にした。

 藍原と俺の家の方向は一緒だ。

 少し時間を空けてから帰らないと、遭遇して面倒な事になる。

 俺は出来るだけゆっくりした足取りで自宅に向かって歩いていた。


「そもそも……なんで俺と藍原って仲悪くなったんだっけなぁ……」


 そもそも昔は仲が良かったのだ。

 中学三年の頃だったと思う、何が切っ掛けだったかは良く覚えていないが、今とは全然違う関係だった事を覚えている。


「ん? あ……やばっ……」


 俺がそんな事を考えながら歩いていると、前方に藍原らしき人物が歩いているのを見つけてしまった。

 はぁ……なんで今日はこんなにあいつと遭遇するのかなぁ……。

 俺はそんな事を考えながら、立ち止まってコンビニを探す。

 藍原が見えなくなるまで、時間潰しをしようと思ったのだが、コンビニどころか公園も無い。

 さて……どうするかな……。

 俺がそんな事を考えていると、黒いワンボックスカーが俺の脇を通った。

 なぜかわからないが、そのワンボックスカーは窓のところにカーテンが付いていて、中が一切見えないようになっていた。


「なんだ……あの車……」


 俺は何となく不信に思った。

 窓をカーテンで隠していることもそうだが、速度も凄く遅い。

 何かを探しているのだろうか?

 俺がそんな事を考えていると、前方の藍原が曲がり角を曲がった。

 それに続いてワンボックスカーも右に曲がった。

 俺は何か嫌な予感がした。

 俺は藍原の事が心配になり、走って藍原が曲がった角に向かった。

 そこで俺は見てしまった。

 藍原が男数人にあの黒いワンボックスカーに連れ込まれようとしているところを……。


「藍原!!」


 俺は咄嗟に持っていた鞄を投げ捨て男達に向かって行く。

 

「おい! そいつを離せ!!」


「な、なんだこいつ!」


「ちっ! 誰か居たのか! さっさと女を乗せろ!」


 もちろん、大の大人三人に俺が勝てる訳も無く、俺は藍原の腕を掴んで藍原だけでも逃がそうと必死に藻掻いた。

 

「こいつ! いい加減にしろ!!」


「ぐっ!」


「湊斗!!」


 俺は一人の男から角材のような物で頭を殴られフラつく。

 しかし、俺はなんとか立ち上がり、体勢を戻して藍原の手を掴む。


「はぁ……はぁ……イッテェなぁ……」


「このガキ!!」


 俺が藍原の腕を掴んだ瞬間、またしても男が角材を俺の方に振り上げてきた。

 ヤバイ、やられる!

 そう思った瞬間、大きな声と共に男の手が止まった。


「何をやってる!!」


「ヤバイ! 逃げるぞ!!」


「お、女は?」


「置いていけ! さっさと逃げるぞ!!」


 誰か別な人が騒ぎを聞きつけてきてくれたようだ。

 よかった……正直俺だけじゃあ藍原を逃がす事も出来なかったかもしれない。

 男達はワンボックスカーに乗り込み、すぐに逃げていった。

 俺はその瞬間にやってきた安心感で腰を抜かし、その場に座り込んだ。


「湊斗! 大丈夫?」


「君! 大丈夫か!? 頭から血が出てるぞ!」


「あ……多分大丈夫だと……」


 通りかかったスーツの男性が俺を心配して駆け寄ってきた。

 俺はその後、その人に病院に連れて行かれた。

 男の人は犯人の車のナンバーを覚えていたらしく、すぐに警察に連絡してくれた。

 

「うん、額が割れて血が出ただけだね、骨に問題は無いし大丈夫だよ」


「はい、ありがとうございます……」


「あ、遅れて症状が出る場合もあるから、何かあったらすぐに病院に来るんだよ」


「はい」


「それじゃあ、お大事に」


「分かりました」


 俺は頭に包帯を巻いてもらい、病院まで母さんに迎えに来て貰った。

 

「アンタ大丈夫!? どうしたのよ!」


「いや……ちょっと……」


 母さんは俺を見つけると、血相変えて俺に近寄ってきた。

 

「息子さん、女の子を助けたんですよ。勇気がある立派な息子さんですね」


 一緒にいたスーツの男の人が、ざっくりと何が合ったかを母さんに説明してくれた。

 母さんはそれを聞いてなんだか複雑そうな顔をしていた。


「あの……藍原……あの女の子は?」


「あぁ、彼女の両親に連絡して迎えに来て貰ったよ。怖い思いをしただろうし、早く両親に迎えに来て貰った方が良いと思ってね」


「あ、そうですか」


「心配しなくても、彼女ほぼ無傷だよ。あぁ、それとこれ君の鞄だろ?」


「あ、すいません」


 スーツの男の人は俺が投げ捨てた鞄を拾ってくれていたらしく、俺に鞄を返してくれた。

「君も今日は帰って休むと良い、頑張ったね」


「あぁ……まぁ……」


「警察には僕の方から通報して置いたから、後は僕に任せてくれ」


「はい、お願いします」


 俺は男の人にお礼を言って、母さんと一緒に自宅に帰った。

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