第55話

 「ろ、労働?」


 突然の展開に困惑しているクリプッセンを尻目に、俺は話を続けた。


 「お前の言ってる庶民の暮らしってのはな、お金がないとやっていけねーんだよ。そして庶民はお金を得るために、労働をするわけだ。」


 「そ、そりゃそうだけど・・・。」


 「だったら庶民の暮らしを教えるには、実際に体験してもらうのが一番手っ取り早いだろ。ま、そーいうことで。」


 そう言って俺が話を切り上げると、クリプッセンが


 「ま、待ちなさいよ!」


 と言って質問をぶつけてきた。


 「あなたの意図は分かったわ。でも、なんで私のお金を奪ったの?」


 「そりゃあ、お前が労働するしか道がないようにするために決まってるじゃん。あったら絶対使うだろ?」


 「そ、そりゃそうだけど・・・。じ、じゃあ、これから私はどうすればいいのよ?」


 「だから言ってんじゃん、働くんだよ。自分で働き口を探して、申し込むんだよ。お前、そんなことも知らないのか?」


 「え、それってつまり・・・?」


 俺は親指を立て、満面の笑みでこう言った。


 「ああ。一から頑張れ!」


 「う、嘘でしょ・・・。」


 俺はクリプッセンがショックのあまり、国に帰るなどと言いだすと思ったが、その予想は真逆だった。


 「いいの!?アンタ、分かってるじゃない!」


 コイツのおてんば具合は底なしだった。


 「前から一人でやってみたいと思ってたのよねぇ、そういうの。自分の力でお金をもらって、自分の力で生計を立てる。・・・あぁ、ワクワクが止まらないわ。」


 そんな感想を述べてから、クリプッセンは俺に向かってこう言った。


 「でも、アンタ達の方は大丈夫なの?私がそこらへんで働いたことがバレたら、護衛の責任を取られるわよ?」


 「心配すんな。許可は取ってある。」


 「許可?・・・あぁ、そういうことね。あいつ、よく分かってるじゃない。」


 そう言ってクリプッセンは勝手に納得し、そして俺に向かってこう言ってきた。


 「あと、アンタが奪ったもの、後でちゃんと返してね。」


 「ああ、分かったよ。」


 最後に俺はクリプッセンに


 「じゃあ、頑張れよ。」


 と言ってイーギと共にその場を後にした。

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