第53話

 そんな異世界事情をイーギから聞いていると、クリプッセンがトレーを持ってやってきた。どう見ても一人前だった。


 「なあ、俺達の分ハ?」


 「分かってるわよ。取りに行くから、アンタ達も手伝いなさい。」


 そう言われ、俺とイーギはクリプッセンが決めた料理を運ぶことにした。




 「・・・さてと。これで全部ね。」


 「いや待て。いくらなんでも多すぎるだろ。」


 クリプッセンが頼んだ食べ物の量は、明らかに3人で食べられる分を超えていた。四人用のテーブルを三つも使っているので、周囲の目がヤバかった。


 「仕方ないわ。だって魅力的な料理ばかり売っていたんだもの。」


 「ハァ・・・。」


 「それよりも見て、ほら!私が夢にまで見た料理がこんなに並んでいるのよ!スゴくない?」


 「いや、すごいけど。でも、こんな量を三人で食うつもりか?」


 「ああ、そういうことね。心配いらないわ。んん・・・よいしょ!」


 そう言ってクリプッセンが手をかざすと、そこに小さな穴が生じた。


 「え、何これ?」


 「さっきまで私たちがいた場所よ。つまり、世界の狭間。そこにこの料理を入れて好きな時に食べられるようにするの。」


 するとクリプッセンはテーブルの上にある料理を次々とその穴に入れていった。完全にゴミ捨ての要領だった。


 料理をある程度残してクリプッセンの選別が終わると、


 「終わったわ。じゃあ早速食べましょ。」


 と言って昼食が始まった。




 食事中、俺はクリプッセンに不満を漏らした。


 「あのさ、お前はこれでも姫なんだぜ?バレたらどうすんだよ。」


 俺の不満はさっきの料理の件だ。一応変装はしているものの、目立つことは避けたい。しかもよりによって、あれは悪目立ちの類のものだった。


 「ええ、私も反省しているわ。だからこれでも食べて落ち着きなさい、ほら。」


 そう言うと、クリプッセンは俺の前にたこ焼きのような球体を差し出し、


 「はい、アーン。」


 と言って距離を詰めてきた。直視できなかった。視線をそらした先にいたイーギはアゴをクイクイして、俺にやっちゃえと指図していた。


 俺は覚悟を決め、目を閉じてそれに応じた。やっぱり味がしなかった。


 目を開けて周囲を見渡すと、このパークのスタッフがクスクスと笑っているのが確認できた。穴があったら入りたかった。

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