第38話
先に仕掛けてきたのはガキだった。正面から突っ込み、俺の顔面に右腕を振ってきた。
俺はそれに合わせ、左ストレートを打った。俺のカウンターが先にガキに当たり、ガキのパンチは俺に届かなかった。
するとガキがよろけたので、すかさず追撃を入れようとしたところ、ガキがよろけた勢いで一回転して、俺の脇腹に蹴りを入れてきた。俺はそのまま吹っ飛び、地面をゴロゴロ転がった。
受け身を取って停止した俺は、ガキがやってきたのを確認して、腰をかがめ、タイミングを合わせてボディーブローを放った。ボディーブローは見事に命中し、ガキの纏っている灼熱の鎧が少し崩れた。
ただの我慢比べだった。蹴って吹っ飛ばしては、殴られて吹っ飛ばされる。その度に起き上がり、相手に立ち向かう。ただの殴り合いでないことを感じ取ったからだろうか、周りは妙に静かだった。
今思えば、俺はここまで闘志をむき出しにして戦ったことがなかった。何かの保険をかけていた。やる気とか本気といったことを無粋と一蹴して、常に内側にいた。
分かっていた。そんなものを自ら必要としていたことを。失うことがあってでも、戦わなければならないことを。そうすれば得られたはずだと後悔したことが、何度あったことか。
ただ怖かっただけだった。このぬるま湯に、一生浸かれないと思っていたのだ。この戦いだって、なあなあで済まそうとしていた。
だが、今こうしてやる気を全開にして、実感した。熱湯っていうのも、案外居心地がいいもんだな。
「ハァ、ハァ・・・。」
「フゥ、フゥ・・・。」
俺とガキの意地比べは続いたが、飛距離がお互いに落ちていった。どちらもスタミナが切れかけていた。状況は、俺の方が有勢だった。
俺がガキの顔面目掛けて右ストレートを放った瞬間、ガキの顔面を守っていたゴーレムの鎧がはがれ、素顔が見えた。満身創痍って感じだった。
ガキはよろけた後、俺の腰目掛けてタックルをかましてきた。そして、俺から離れまいとして、両腕で俺の腰をがっしりとホールドしてきた。
「おっ、どうした?全然効かねえなぁ。」
「・・・初めてだ。ここまで気分を害したのは。そして、ここまで倒したいと思ったのは。倒したと思ったのに、また起き上がってくる。とどめの一撃が、まだ必要になる。」
「・・・。」
「もう満足だろう。私はお前を高く評価した。お前に恐怖したことも認めた。これ以上、何を望むんだ?」
「そんなもん、ハナから望んでねーよ。ただ、気に食わんヤツを懲らしめたいだけだよ。」
「・・・気が合うな。じゃあ、お前を懲らしめてやろう。」
そう言うと、ガキの鎧が急に熱を発して光りだした。
「・・・ん?なんだこれ?」
「一つ教えてやる。才能あるものは、魔法は組み合わせることができる。今ある土と炎を合わせると、何の属性が生まれると思う?」
「いや、知らねーよ。」
「そうか。ならば、その身を以って正解を味わうといい・・・!」
その瞬間、ガキを中心として、大規模な爆発が起こった。
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