第33話

 お互いが臨戦態勢になると、しばらくの間膠着状態が続いた。


 その静寂を先に破ったのは、俺だった。そーゆう読みあいみたいなのがめんどくさかったので、さっきと同じように突撃した。


 するとガキも俺に向かって飛び込み、右膝を突き出してきた。


 俺は膝蹴りを左によけ、その回転のまま左フックをガキにかました。初めてのわりにはうまくいった方だと思った。


 フックは見事に顔面を捉え、ガキは地面に吹っ飛んだ。俺の考えは間違ってなかった。こちらの世界の格闘技が通用するのだ。もっとも、俺のそれはただの真似事に過ぎないが。


 着地すると、俺はすぐさま方向転換し、ガキに距離を詰めていった。


 ガキはほんの少しフラフラしながら両手をついて起き上がり、俺から距離をとり出した。そうはさせまいと足を地面に踏み込み、足を伸ばした瞬間、俺は顔面からスッ転んだ。足が地面に縛られたのだ。


 すると俺が地面ごと下に沈んでいき、上から土が覆いかぶさってきて、俺は生き埋めにされた。


 これはヤバいと思った俺は、精一杯に体をブンブンと動かしたが、周囲の土が崩れるだけだった。


 成す術なしと思った俺だが、ここで逆転の策を思いついた。俺は体勢を整えて両手を上に挙げ、魔力を集中させてイメージを膨らませた。

 

 すると両手の上に赤い球のようなものができて、それが徐々に大きくなっていった。成功だった。俺は、炎魔法を習得していたのだ。


 俺はその火球を上に向けて発射した。すると火球はビームのように伸びていき、周りの土を薙ぎ払っていった。すると外からの歓声が聞こえてきた。


 そこで俺は炎魔法を止め、大きくジャンプをして、やっと土から抜け出すことができた。俺は背にした大穴を振り返り、もし抜け出せなかったら・・・なんてことを考えてゾッとしていた。


 それから俺はハッと我に戻り、ガキを探した。すると闘技場の壁際で、あぐらをかいているガキを発見した。ガキは目を瞑り、両腕をぶら下げていた。なんというか、脱力感があった。


 俺はガキのところに近づき、意識があるのか確認するため、とりあえず手を振ってみた。へんじがない、ただのしかばねのようだ。


 ここまで無防備な状態のガキに攻撃をするのはさすがに心が痛いので、一撃で楽にしてやろうと思い、ガキの腹めがけて右足を蹴り上げた。


 すると突然、ガキの姿が消えた。どこに行ったかと思い、周囲を見渡すと、闘技場の中央でガキが宙に浮いているのが分かった。様子が違った。今までのガキとは違った。


 これから何が起きてもいいように、俺は改めて身構えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る