第31話
試合を終えた俺はホテルに戻り、さっきの戦いの手応えからこの大会の優勝を確信していた。少し意気込んではいたが、これではまさしく拍子抜けだ。賞金は、俺のものだ。
そう考えていると、イーギが扉を開けて戻ってきた。
「いよっ、シイマ選手!いい強者っぷりだったナ。」
「あの戦いに関しては、完全に向こうが弱すぎただけだろ。でもまあ、これで分かったわ。この大会、完全に俺の優勝だろ。」
「まあ、そーなるだろうナ。少なくとも決勝までは楽勝だと思うゼ。」
そんなイーギの言葉通り、俺はこの後の2回戦、3回戦を楽勝で突破し、とうとう決勝までコマを進めた。
決勝戦は夜に行われた。夜ということもあって、闘技場の外は昼とは違い、屋台が並んでいたり、大はしゃぎする人々が多数見受けられた。
「いいなあ、こーゆう雰囲気。分かるか、シイマ?」
「ああ、分かるぜ。こんな状況を見てると、大暴れしたくなるよな。大声を上げたり、悪ふざけしたり。」
「なんか、ずれてるよーナ・・・。」
そんな会話をしながら、俺達は闘技場に着いた。別れる間際にイーギが、
「気を引き締めといたほうがいいゼ。」
と俺に忠告をしてきた。
俺はいつものように戦いの場に飛ばされたが、様子がいつもと違った。
夜のため会場がライトで照らされていたこともそうだが、闘技場の盛り上がりが今までとは比べ物にならなかった。たかが初心者向けのトーナメントでこんなに人が集まるものなのか。
・・・もしかしてこの世界って、こんなテクノロジー持っといてこれくらいしか娯楽がないのか?
なんてことを考えながら前を見て相手を確認してみると、相手は俺と同じくらいの身長をしていたが、それは鎧を身に纏った状態でのものだった。そのせいで、顔も見えなかった。
すると、いつものように司会の声が突然聞こえてきた。
「皆様、お待たせしました!いや、私もこの時を待ちわびていました!初心者向けトーナメント、決勝戦!1回戦から余裕をもって対戦相手をなぎ倒してきたこの男、シイマ選手!」
すると、司会の声に応じるように、観客の歓声がうねりを作り出して大きくなったり小さくなったりした。
「対するは、同じく破竹の勢いでこの決勝まで勝ち上がってきた、鎧を身にまとう騎士、ジュラグ選手ぅ!」
・・・え、騎士?ってことは、こいつ武器とかを振り回すのか?
「それでは両者、準備はいいか!?・・・決勝戦、始めぇっ!!」
試合の始まりの合図が出た途端、チビ騎士は俺から距離を取り、静止した。俺は特に何も考えてなかった。特に大したこともできないだろうと思ったからだ。しばらくするとチビの身体が光りだした。
するとチビが右手の人差し指で上を指し示した。それにつられて俺が上を向くと、大小さまざまの火球が落っこちてくるのが見えた。俺は口をアングリと開け、
「マジかよ、おい・・・。」
とつぶやくしかなかった。
「なな、なんと、ジュラグ選手の指さした先に・・・」
と司会が動揺し、観客が騒いでいたそうだったが、この時の俺の耳には入っていなかった。とりあえず、このやべー状況をどう切り抜けるのかを必死に考えていた。
すると、鎧の中から声が聞こえてきた。
「お前に、降参を勧めよう。それならば、お前が無傷でいることを保証してやる。」
「そんな脅しが通用するとでも思ったのか?」
「通用する。なぜならお前は、この私よりも弱いからだ。」
「決めつけはよくないな、チビ助ぇ!」
この発言と同時に、俺は一瞬にしてチビの懐に入り込み、右腕でアッパーを放った。初めての割にはうまくいった。
チビはほんの少しだけ遅れて反応し、のけぞって俺のアッパーをかわしたが、兜に直撃した。
そして兜が宙を舞ったことで、俺はチビの正体がようやく分かった。ただのガキだった。
「なぁんだ、お前、ただのガキじゃねーかよ。」
「だとすると、お前はそのガキよりも弱いことになるな。」
「・・・お前に、一つ大事な情報を言ってやるよ。」
「いいだろう、聞いてやる。」
「俺はな、マセたガキが大嫌いなんだよ!」
俺はあのアッパーで少し気になることがあったので、とにかくガキを攻め続けようとした。しかしその瞬間、
ドゴォン!!
という音が聞こえたので後ろを振り向くと、そこにはとんでもない大きさのクレーターができていた。火球が落下してきたのだ。
「強がりはよせ。体が震えているぞ。」
「バカ言え。これはなぁ・・・武者震いって言うんだよ。」
俺はかつてないほどに興奮していた。アニメやゲームを経験してから夢見ていた、ファンタジーな戦いが目の前に広がっていたからだ。
火球が降っている。明らかな強敵。これ以上にあの頃の憧れを想起させる要素がどこにあるのだろうか。
昔の俺に会ったら、お前の夢は叶う、と言ってやろう。
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