第30話
武道会の観戦を終えて、これが単なるパワーの押し付け合いだということに気づいた俺達は、特にやることがなかったのでグータラしていた。持ち金も全て借金返済に使われたので、賭けることもできなかった。
俺はあまりにも暇だったので、ホテルのフカフカなベッドで爆睡していた。布団のありがたみを再認識した。
そうしていると、突然俺の脳内に直接、
「シイマ様。試合の30分前になりました。会場にお越しください。」
というメッセージが伝わってきた。
俺はハッとして起き上がり、イーギを呼んだ。
「イーギ、出番がやってきたみたいだ。見に来るか?」
「まあ、暇つぶしとして見てやるとするカ。」
そう言うとイーギは飲みかけのものをグイッと飲み干し、俺と共に部屋を出た。
「シイマ、会場がどこなのか分かるのカ?」
「ああ、脳内に地図が植え付けられてる感じだ。これも魔法の一種なのか?」
「そうなんじゃねえノ?」
「お前、酒臭いぞ・・・。」
そんなこんなで俺達はさっき見た闘技場に着いた。選手専用の入口と観客の入口で分かれていたので、俺達はそれぞれ別れることになった。入口に入る前に、イーギが声をかけてきた。
「ああ、そうだっタ。くれぐれも、俺の暇つぶしをなくすんじゃねーゼ。」
「・・・言われなくてもな。」
闘技場に入ると、そこにはだだっ広い通路があった。天井がバカみたいに高かった。そこを通っていくと、
「シイマ選手ですね。お待ちしておりました。ついてきて下さい。」
という声とともに、鎧を身にまとった兵士っぽいやつが近寄ってきて、俺を誘導してきた。
誘導された先にあったのは、クリスタルだった。しかし、ホテルの部屋にあったそれとは違い、俺の身長ぐらいの高さがあった。
「なあ、兵士さん。これ、何なんだ?」
「転送装置です。対になっている結晶の両方に手を触れると、その二名が戦いの場に転送されるようになっています。」
「へ、へえ・・・。」
これに関しては、もうそーゆうモンだとスッパリ受け入れるしかなかった。
「では、その結晶に手を触れてください。」
そう言われたので、目の前の結晶を手で触れると、俺の視界が急に明るくなった。この世界に飛ばされた時のそれ全く一緒だった。
目を開けると、俺の目の前には一人の男が立っていて、その背後には高い壁があり、たくさんの人が歓声を上げていた。ホテルで見たあの光景だった。
そうやって今の状況を整理していると、どこからともなく大きな声が聞こえた。
「それでは皆さん、お待たせしましたぁ!第一回戦、第3試合!まずはこの男!この街では知らぬものなしの怪力パフォーマー、ガーダ・ウンド選手!対するは、経歴不明の謎男、シイマ選手!」
謎男、って・・・。これじゃあ、完全にこっちが悪役じゃねーか。
そう考えながら、上を見て観客の数と歓声の大きさを堪能していると、
「おい、お前。早めにギブアップしといたほうがいいぜ。そんな体じゃ、手加減できないからなぁ!」
と言って、全身ムキムキのタンクトップ男がなんか言ってきた。ピチピチしたタンクトップだった。
「ギブアップ?・・・ああ、そうだった。これのルールってなんだ?」
「簡単だ。どちらかがギブアップって言うまで続く、それだけだ。やっちゃいけないのは、ギブアップって言ってからの追い打ち、魔法の使用だけだ。ちなみに、レフェリーストップもあるから、死ぬ心配はしなくていいぜ、新人君。」
「へえ、そうなんだぁ・・・。」
ギブアップさえ言わせなければ、何をしたっていいんだな。
「な、なんだ、お前。なんかドス黒いオーラが出てんだけど。とりあえず、立ち位置に戻るぞ。」
そう言われたので、俺は地面をキョロキョロ見回し、後ろにあったサークルの中に入った。
すると俺を謎男と表現した声の人が再び聞こえた。
「それでは二人とも、準備はいいか!?」
その声と同時に、タンクトップ男が構えを取った。俺は特にそんな習い事はしたことがなかったので、とりあえず突っ立っていた。
「それでは、第一回戦、第3試合!始めェ!」
こうして、俺の戦いが始まった。
始まりの合図と同時に、タンクトップ男が、
「勝たせてもらうぜ、凡人!」
と言って、俺に突進してきた。そしてその勢いのまま、俺の顔面に向かって右ストレートを放った。
すると不思議なことが起こった。俺から見たその右ストレートが、とてもゆっくりに見えたのだ。原因はよく分からないが、動体視力がとんでもない状態になってた。
俺はこの状況をしばらくの間堪能してから、ゆっくりと頭を左にずらし、そのまま右腕でボディーブローをかました。血で服を汚したくなかったので、ゆっくりと打った。
ボディブローがタンクトップ男の腹に当たった瞬間、時間の流れが元に戻り、
「グホッァ!」
と声を出し、ムキムキヤローが腹を抱えて後ずさりした。
「もういいんじゃねーか?お前、よだれ出てるぞ。」
「ふざけんじゃねえ。俺が、優勝するんだ・・・っ!」
そう言うと、距離を取り、
「ハアアアアアア・・・!」
と言いながら力を込め始めた。すると、筋肉がより肥大化していき、タンクトップ男のタンクトップが破けた。しかも、拳が赤くなりだした。
「おーい。おたくの拳、なんか熱気出てんだけど、それ魔法だろ。」
「騙されやがって。魔法は使ってもいいんだよ。まあ、お前に使えたらの話だが・・・なっ!?」
俺は騙されたのに腹が立ったので、問答無用で雷魔法をブッパした。
「アババババ、ババ、バババババ・・・」
雷魔法の強度で骨の透け具合や声の調子が変わっていくので、それで遊んでいると、
「ストーップ!!」
という声が聞こえたので、俺は電撃をやめた。
「試合続行不可により、勝者、シイマ選手ぅ!」
こうして俺のデビュー戦は、電撃走るものとなった。
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